「妖星(ようせい)シアトリカルアカデミー・・スか?」

「そうよ。演劇を基礎から教えてくれる業界大手の演劇スクール」

「最近はなぎさやほのか、ゆりといったメンバー以外にもドラマの出演依頼が舞い込むようになったからな・・・その時のために演技の基礎を身につけてもらおうと、そちらでのレッスンシフトも組みたいと思うんだ」

「なぎさなんかは今でこそ女優としてもそこそこ認められるようになりましたけど、初めてドラマ出演が決まっときはヒドイ目に会いましからねぇ〜、何度TAKEをやり直させられたことか・・・」

「中1の頃、1度我慢できずに逃げ出して、ドタキャン出して撮影がストップしちゃったコトもあったわね。マミヤがカラオケBOXで友達と遊んでたところ捕まえてこっぴどく叱って、お尻もたくさんぺんぺんして・・・その後泣きじゃくってるなぎさを連れまわして五車プロ総出で謝り回ったわね・・・2度と同じことが無いようにあまり撮影現場で他の俳優さんたちに迷惑かけないように今の内から対策しておかなきゃね」


と、プリキュアメンバーも全員が帰宅した仕事帰り、付近の居酒屋、「修羅の国」(しゅらのくに)において、難波伐斗が藤田麻美耶、松風麗奈、戸田紅羅、木村朔夜とともに1杯やりながらそんなコトを話し合っていた。

話はプリキュアメンバー達が明日から通常のレッスンを調整して、他に演技の練習を充実させるために有名な演劇塾へ通うという内容の話だった。
その演劇塾の名前は「妖星シアトリカルアカデミー」というもので、マミヤが持ってきたパンフレットには塾長・ミスター・UD☆と書かれていた。
バットはそれを見て、なんとなくイヤな予感がした。

「なんか・・・怪しくないスか?コレ・・・」

「この赤と紫の派手な文字で毒々しく書かれたロゴだけ見るとねぇ・・・でも!ここ10年くらいの塾だけど結構実績あるのよ!劇団・死期とか劇団・いっぷく盛る!堂とか有名劇団の若手女優なんかもここの先生にレッスン受けにわざわざ行ってるとか、演劇だけじゃなくってバレエなんかも教えてるらしわ。このミスター・UD☆ってそのスジでは名の通った人らしいわよ」

と、珍しくここまでマミヤがベタ褒めするとは、相当腕のいい講師なのかもしれない。バットはそう思いながら手元のビールを流し込む。
そして一心地つくと、笑ってマミヤたちに答えた。

「わかりました。ようは、オレもそのレッスンについて行けばいいんですよね?嬢ちゃんたちのサポートなら任せて下さい。早速明日から付き合いますよ」

そんなバットの答えに、マミヤもレイナも、PCAの教育係がワっと色めき立った。

「よかった!ありがとうバットくん!」

「バットくんがいてくれると助かるわ。しっかりしてるし、キチンとスケジュールも管理してくれるし、あのコ達もよくなついてるし・・・バイトにしておくのがもったいないくらいね。大学卒業したら是非正規のマネージャーになってほしいわね」

レイナやマミヤがそんな言葉で彼を褒める。サクヤやベラもバットが来てくれるなら、と実に安心した表情だ。
マミヤやレイナ、ベラなどはプリキュアメンバーの子ども達が通う、私立・愛治学園でも教師を勤めている傍ら、どうしてもレッスン全てに時間が割けない場合がある。
そんな時にしっかり者のバットに付き添ってもらえるならこれほど心強いことはない。

明日はマミヤたち教師全員も参加できるため、彼も参加できるならこれからの事を段取りするのに良い機会だ。
安心したレイナは「お兄さ〜んv生ビール追加ねぇ〜、あ、あと串カツ頂戴!5人前!」といい気になってオーダーをとる。
そんなレイナを横目で見ながらも、バットはもう1度その演劇スクールのパンフレットを見た・・・。




(妖星・・・うぅ〜ん・・・イヤな予感がするのは・・・気のせいか?)

と思った。

そう、最近の自分は当たりたくもないのに、なぜかイヤな予感だけが妙に的中してしまうのだ・・・。






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「ええ!?妖星・シアトリカルアカデミーって、あの!演劇志望の女優や有名バレエ団のプリマなんかも通ってた演劇の超エリート塾の!?」

「ウソ!?今日の見学レッスンに行くとこってソコだったんですか!?行きたい!行きたいですぅっ!♪」


と、私立・愛治学園、放課後のカフェテリアに集まったプリキュアオールスターズのメンバー。
彼女らにそのシアトリカルアカデミーのコトを話した際に、真っ先に喰いついてきたのは、チームファイブの春日野うららと、チームハートキャッチの明堂院いつきだった。

うららもいつきもどうやらその塾のコトを知っているようだったし、いつきなどは普段の考え深い冷静な彼女にしては珍しく、目を輝かせて行きたい行きたいとバットにはしゃいでせがんでいる。

「う・・わ・・わかったよ、いつきちゃん。みんなで行くみたいだからね・・・」
(めずらしいないつきちゃんがここまで騒ぐなんて・・・そんなに評判イイところなのか?)

教育係whithバットで話し合った夜のあくる日。
スタジオへのレッスンへ行く前に学校内でカフェテリアにメンバー達を呼び寄せて、マミヤたちは臨時のミーティングを行っていた。
大学の講義を終えたバットも駆けつけている。
こんなトコロで話し合わなくても・・・と、他の生徒たちの眼を気にしていたバット。
マミヤたちとてそれは同じだったが、今日は美墨なぎさと月影ゆり、そして美翔舞の3人が再来月の日曜夜からはじまる新しいドラマに出演するため、その撮影スケジュールが入ってしまっているのだ。
演劇塾への見学が終わったらすぐにその撮影へと出かけてしまうため、とてもミーティングなど行っている時間はない。そのための苦渋の決断だった。
サクヤがなるべく他の生徒たちの邪魔が入らないように周囲に気を配っている。

「とにかく!いつきもうららも、遊びに行くんじゃありませんからね?あくまで勉強なのよ?そのために見学して、その上でレッスンを申し込もうと思います。いいわね?みんな」

マミヤ先生のその言葉にPCAのメンバー達全員「はぁーい」と元気よく返事した。

「バットくんもお願いね」

「ええ、まかせて下さい。コッチはバイトなんだし、給料もらってるんスから気にしないで下さいよ」

バットも笑ってそう答える。
バットも来るという話に彼になついているプリキュアメンバーのお嬢さま達は諸手を上げて喜んだ。
と、そんな大人気のバットにこのコから質問があった。



「あ!そーいえばさあ、バットおにーさん!」

「ん?なんだいのぞみちゃん」

手をピーンと元気よく上げて、クリクリっとしたまるでペットのような眼差しでバットを見つめて質問しているのは、チームファイブのリーダー、キュアドリームこと夢原(ゆめはら)のぞみであった。
彼女はんっとねー・・と少しもったいつけた後、期待を込めてこう聞いてきた。


「ケンシロウせんせーたちってえ、一緒についてきてくれないの?」

「あ!そーそー!アタシもケンシロウ先生たちにも付き添ってもらいたいなぁ〜♪」

「うんうん!ケンシロウ先生とかぁ、トキのオジサンってぇ、アタシ大好き!おもしろいし優しいしvあの筋肉ムキムキのオジサンはちょっとコワイけど」

ラブもえりかものぞみに引き続いてケンシロウたちに付き添ってほしいとリクエストをする。そんな答えにバットは「ああ、アイツらね・・・」と呟くと、若干声をひそめ・・・



「実はねえ、残念だけどぉ、今回はケンシロウ先生たち、別なお仕事が入っちゃってて来られないんだよ」

「えぇ〜〜〜っっ?」
「なぁんでぇ〜?つまんないのぉーー」

と、途端に上がるブーイング。
のぞみやえりか、ラブやひびきなどは実に残念そうだ。

ケンシロウたち、北斗三兄弟に別なお仕事が入っちゃってて云々・・というのはもちろんバットのデタラメである。
そんな予定はない。

初めてのレッスン。
お転婆娘、元気娘で悪戯っ子な子達が多いプリキュアのお嬢様方をイイコで問題なく過ごさせるのにも一苦労だというのにあの北斗の輩まで連れてきたらさらに厄介この上ないコトになるのは目に見えている。
ケンシロウ達には何も伝えない方が良いと判断し、そしてそのコトをオブラートに包んだまま、上手にプリキュアたちに説明することにしたのだ。

ブーブー文句を言って「なんで?なんで?」とマミヤやレイナなど先生方にまで詰め寄るプリキュアのお嬢様達。

あらためて考えてみるとなぜあんな一種変態の領域にいるヤツラがこのコ達にこれほど人気があるのか?バットとすればややもすると理解に窮するところがあるのだが、今はそのコトに突っ込むのはやめにしよう。
とりあえず、今はレッスンには、バットと、そして教育係の先生達だけが彼女達を連れて行くということを説明して納得させるしかない。
バットは言葉を選びながら彼女達を気落ちさせる事無く、レッスンに向かえるようにと言い聞かせはじめた。


「ホンっトにゴメンねぇ〜、ケンシロウ先生達もど〜〜っしても外せない大事な大事な用ができちゃったんだよぉ〜・・どうにもできなくてねえ〜、そのかわり、みんながちゃんとイイコでレッスンを終えることができたら、オレと先生達がみんなに新しく出来た喫茶店のカフェ・NANTOでケーキセットご馳走しちゃうからvね?マミヤさん」

「え?・・・あ!そうそう!そうね」


と、咄嗟のバットの目配せになんとか反応したマミヤは、プリキュアの少女達に気づかれないように慌てて話を合わせて返事をした。レイナやベラ、サクヤもウンウンとうなづいている。
その答えにPCAメンバーから歓声があがる。

「ホントぉ!?w」

「ラッキぃ〜〜vわーいヤッタヤッタぁ〜〜v♪」

食いしん坊な美墨なぎさや日向咲はハイタッチして喜び、響や奏も「ケーキvケーキv」と手を取り合って喜んでいる。
どうやらケンシロウ先生たちより彼女達にはケーキの方がウエイトがデカかったようだ。バットお兄さんの作戦お見事である。
やれやれと言う感じで軽く首を振って苦笑したバット。しかしホッとした彼の耳にいきなり奈落の底へと突き落とされんばかりにショッキングな言葉が聞こえて来た。






「それは楽しみだな」






『!!』

「あ!ケンシロウ先生!」
「ケンせんせーだぁ!」




「エエエェエェーーーーーーーーっっっ!!??」



突然、ミーティングに現れた噂の男達の姿を見て、バットは絶叫した。
ココにいるはずのない北斗三兄弟が揃ってプリキュア戦士のお嬢様たちの背後に立っていたからだ。
あまりの唐突かつ衝撃の出来事にバットは声を荒げて指を突き付けながら叫んだ。



「なんでいるなんでいるなんでいるなんでいるなんでいるんだあぁあーーーーっっ!??」

「俺はこの学園の教師だからだ」

「教師じゃねえだろ!臨時のバイト教員だろうが!しかもパソコン何台もぶっ壊して今は半ばクビの状態で学校は謹慎中のハズだろーがケン!!」

「そろそろ復帰しないかと理事長に呼ばれたのだ」

「・・・ま・・まあ、ケンはギリギリ・・・あくまでギリっギリわかるとしてだ・・・トキさんにラオウは・・・どして?」

「我ら北斗神拳によって結ばれし三兄弟!」

「わはははははっ!いついかなる時も心は常にともにあり!行動をともにするは必然であろうっ!」


という答えにバットは「あー、さいですか」とやや投げやりに答えた。
北斗神拳によって結ばれしという過程が全く持って現在のトコロ意味不明だが、コイツら兄弟の中ではおそらくはこの北斗神拳こそが共通理解なのであろう。
それ以上突っ込むのはやめにした。
米神を抑えてややクラクラしたバットだったが、何とか正気を保つとケンシロウたちにこう言った。

「ま・・まあ、かろうじて・・・あくまで辛うじてだがケンはいいとしよう」

「ありがとうバットよ」

「いや別に褒めてねえし!ケンはまあアルバイトだろうがこの愛治学園の教員だからまだわかるとしてだ・・・トキさんにラオウのダンナはどうして?」

「なに・・・接骨院の方がうまくいかんものでな・・・ケンシロウにくっついていれば実入りになる仕事にありつけるかと思って・・・」

「ぬぅわはははははっ!我は北斗の長兄にしてこの世の天を掴む覇王なり!なれば芸能界もこの手中におさめることは必定!手始めにケンシロウの通っているアイドル事務所とやらから支配してやろうと行動をともにしていたまでだぁーっ!」

「またそんな理由かよ・・・」

聞いた自分がバカだった。
とバットはガックリとうなだれた。
トキの理由もたいがいだが、ラオウの方はもうよくわからないいつもの現実ズレしたおよそ野望と呼ぶのもはばかられるような妄想にすぎない。
そんなコトでわざわざ関係ないこの学校にまでついてきたのか?

(ハッ!・・イヤ、この際そんなコトはどうでもイイ・・・問題は・・・)
「あ・・・アンタら・・まさか・・・今のハナシ聞いてねえよな?」

「うむ。なにやらバットよ、お前がケーキをご馳走してくれるとか・・・」
「ありがたい話だ。ケーキなどと高価なもの・・・我らにはとても手が出んしな。病のこの身にも少しは薬になってくれるハズ・・・ゴホッゴホッ」
「ガッハハハハハ!ケーキか!よかろうっ!惰弱な菓子ふぜいではあるが、奢るというのであれば奢られてやろうではないか!うぬが差し出すケーキ、この拳王の血肉へとするがよい!」


(ああ・・・よかった。そのくだりだけか。聞かれてたのは・・・)
「わかった、わかったよ。ったく、しょうがねえなあ、じゃあお前らにも特別奢ってやるからありがたく・・・」

「あ!そうそう!あのねえ、今度ねえ、演劇のレッスンがあるんだけどぉ、そこに行ったとき、イイコでちゃんとレッスン受けれたらご褒美におごってくれるって!せんせーたちも約束してくれたんだよ!えへへ〜vv」

「っって、のぞみちゃぁぁぁ〜〜〜〜〜〜んっっっ!言っちゃダメだってええーーーーーーっっ!!そのコトわああぁーーーっっ!!」


ホッと胸を撫で下ろしたところから突然いきなり奈落に突き落とされ、バットが盛大に悲鳴を上げる。
マミヤたちも「あちゃ〜・・・」という顔で引きつった笑い。
そんなバットお兄さんと先生たちの気持ちなど露ほども知らず、左右で結った濃桃色のセミロングヘアが特徴の少女、チーム5GOGO!(ファイブゴーゴー)のリーダー。
明るく、能天気で底抜けにお気楽なのがウリの夢原のぞみちゃん本人は、「ねーねーケン先生たちも一緒にイコーイコーv」と、先程からのバットのお願いを丸無視するようにケンシロウたちにそう言って縋り付いていた。



「なんと、演劇のレッスンとな?」
「なんのコトだ?」
「この拳王にも詳しく話すがよい小娘」

「うん、あのね、よーせーしあ・・と・・ろ?・・・う〜ん・・わすれちゃった。でも、なんかそーゆー名前の演劇を教えてくれる塾があるんだって、で、そこでちゃんとイイコで先生達の言うコト聞いてレッスンこなしたら、バットおにーさんがメンバーにケーキおごってくれるって!あ!マミヤせんせーたちもだよね?ご褒美忘れないでよ〜vでねでね!今日今から行くんだってさ♪ねえねえケン先生たちも一緒に行こうよ」

「妖星シアトリカルアカデミーでしょ?もう、のぞみったら、さっき先生たちが説明してたじゃん、しっかりしなさいよね」

「えへへ〜、ゴメンネりんちゃん♪」

全く悪びれる様子の無い全開の笑顔で言われ、いつも彼女のつっこみ&世話役に回っている幼馴染で同じチームファイブゴーゴー!のメンバー、夏木りんは、相変わらずの幼馴染の態度にタメ息をつきながら、続けてのぞみに言う。

「ムリ言わないの。ホラ、さっきバットさんも言ってたでしょ?ケンシロウ先生たち別の大事なお仕事が入ってるって」

「ほぇ?そーだっけ?」

「ですよね?ケンシロウ先生におにーさんたち」

「イヤ・・・別にそんなものは無い」

「ああ、むしろ最近仕事がなくて困っている。そしてお金もなくて困っている・・・バット、何か仕事があるのか?」


と、途端にりんとのぞみからウソの情報であったことを暴露され、バットはヤバイ!と思いつつ必死に取り繕った。

「い・・・いやっ・・それはっ・・あのっそのっ・・そ・・そうそう!今から!今から連絡しようと思ってたんだよ!ねえマミヤさん!レイナさん!」

「え!?・・あ・・ああ、そ・・そうよ・・ね?」
「え・・ええ!そうですそうです!ちょうどよかったですよね〜センパイ・・アハハ・・(^^;

バットに話を振られて冷や汗混じりにマミヤとレイナも何とか話を合わせる。ベラとサクヤもウンウンと慌ててうなづいている。
その様子に同じチームファイブゴーゴー!のメンバーである水無月かれんと美々野くるみが・・

「え〜?そ・・そうでしたっけ?スタッフさんたちの仕事のシフトとか連絡ってそんなに急に決まるものじゃなかったような・・・」
「うん、ココさまとナッツさまもおっしゃってたケドぉ、最低でも1週間前までには決まってるハズじゃなかった?」

と疑問の声を述べた。
しかし、そんな彼女たちをチームマックスハートの雪城ほのかとチームハートキャッチの月影ゆりが自分たちの方へと引き寄せると。

「かれんさん、今は・・ホラ。バットさんたちや先生たちのコト、考えてあげて・・」
「アナタたちの気持ちも分かるけど・・・ね?バットさんもマミヤ先生たちも・・・日頃からタイヘンらしいのよ。わたしたちのことでも、ケンシロウ先生達のことでも・・・」

言われて2人がバットの方を顧みると、彼は祈るような表情で「お願いだから今は黙ってて!」というようなジェスチャーをしていた。
その行動にさすがにかれんもくるみも気づき、何かを理解したように黙り込んだ。


「ぬう、どうやら何か仕事があるようだな」
「ああ、では少しでも収入を得る為にバットの言うその大事なお仕事とやらの話を聞くとしようか」
「ぬははははは!仕事などはいらぬ!この拳王に金のみ差し出せいっ!」


「そ・・そうだなぁ〜・・・え〜と・・な・・なんだっけかな?」

と、バットはいざ仕事の話になると歯切れ悪そうに言葉を濁してしまう。
ケンシロウ達をプリキュアちゃんたちに同行させたくないがためにそのような出まかせを言ってしまったものの、果たして彼らに満足に務まるような仕事が都合よく転がっていようか?
しどろもどろになってしまいにはバツが悪そうに頭を掻きむしりはじめたバットを見て、コレはマズイと思ったマミヤが、突然閃いた。

(そう言えば・・・うん、コレならだいじょうぶかも)
「ケン!それにトキにラオウ!実はアナタ達に頼みたい仕事って言うのは配達の仕事なの」

「え?」

「せ・・センパイ?配達・・って?」
「何かあったのか?マミヤ」
「そんな仕事あったかしら?」

バットだけでなく、レイナやベラなど他の教育係の教師スタッフも首を傾げた。しかし、そんなメンバー達にマミヤは口元に人差し指をあてがって静かに。というジェスチャーをした。
そしてケンシロウ達にさも深刻そうに、五車プロモーションの一大事とでも言いたげなように声のトーンを落として言った。

「実はこの前仕事でウチの会社を訪れたレイが財布を忘れていってしまったの・・・財布の中にはお金の他に彼の大切なものがギッシリ詰まっていて・・・このままじゃ彼、身動きとれなくって大変なの。でも、人気モデルの彼は仕事が忙しいし・・・この財布を届けてくれないかしら?」

と言って、マミヤはふと、革張りの高級そうな財布を取り出した。
その財布に北斗三兄弟も色めき立つ。


「なんと!サイフか!?カネが入っているサイフか?カードが入っているサイフか!?」
「それは確かに一大事!金を失うということは我らもその恐ろしさを身をもって経験しているからな・・・早急に届けねば!」
「仕方ない!レイ如き強者の世に不要なべく弱者の願いを聞き届けるはいささか本意ではないが・・・コレも我が覇道においての資金を調達するため、よかろう!この世紀末覇者めが一肌脱いでやろうではないか!感謝するがよい!」


と、意気揚々と威勢よく答える北斗三兄弟。
やる気になってくれてプリキュアちゃんたちのレッスンのコトが頭から抜け落ちつつあるのはイイコトだが、バットには、いや、バットだけではなく、マミヤ以外の他の教育係スタッフの間にも心配な空気が立ち込めた。


「ま・・マミヤさん?その・・・オレ知らされてないんですけど・・・ホントにそんな依頼あったんスか?」
「そ・・・そうですよセンパイ・・・そんなコトありましたっけ?」
「私も知らされてないぞ?」
「ウソだったらいくらなんでもマズイんじゃないかしら?騙されたって知ったらいくらなんでも怒るわよ?」


と、小声でそんなコトを述べる彼らに、マミヤは口元に手を当ててウインク1つすると得意気に微笑んだ。
ココはとりあえずまかせろというコトだろう。

「レイのことだから届ければお礼にゴハンでもご馳走してくれるかもしれないわねぇ・・どう?ケン、行ってくれる?」

「ああ、ヤツの強敵(とも)の1人として見過ごすわけにはいかんだろう。この仕事引き受けた」
「我らも安全を期して共に行こう。せっかく栄養たっぷりの食事にありつけるチャンスかもしれんしな」
「グワハハハハ!なれば今回は刺盛りだ!刺盛りを持ってこい!ケンシロウ!レイのヤツにこの拳王に刺盛りを馳走せいと伝えい!」

と巧みにケンシロウ達の意欲を配達の仕事の方へと誘導するマミヤ。
そのまま彼らは気合を入れてその場を後にした。
プリキュア以外の周りの生徒たちは一体全体何が起こったんだ?今の怪しいオッサンたちは誰なのだろうか?と怪訝な表情で北斗三兄弟が去って行ったドアの方向を見ていた。
事態がしばらくして落ち着くと、バットはそのままマミヤに小声でプリキュア戦士のお嬢様方に聞こえないように



「・・・マ・・マミヤさん?その・・・レイさんに配達の仕事って・・忘れ物って一体?」

と聞いてみた。するとマミヤはウフフと笑ってから・・・

「実はね・・・ハイ、コレ」

「あ!センパイ!ソレって・・・レイさんの?」

「そう、彼のサイフ、ホンモノよ。アナタたちには言ってなかったけど、この前一緒にお茶飲んだ時、彼ったら支払いの後サイフお店のレジに置いて行っちゃったの。すぐに私が気づいて彼に連絡したんだけど、他のサイフがあるからまた今度でいいなんて言ってねえ・・・いつ返そうかと思ってた矢先だったから・・・」

そう言ってマミヤが自分のバッグから取り出したのは茶色い革張りのいかにも芸能人っぽい高級感漂う財布だった。
なんとマミヤとプライベートであった時に彼は肝心なお金やカードの入った財布を置き忘れてしまったのだという。拳法家の癖に注意力が足りないが、他にも財布を持っているというところはさすがは売れっ子モデル。よく稼いでいるようだ。
バットが嬉々としてその財布を見ながら言う。

「そっか!だからマミヤさんあんなに余裕たっぷりにケンたちに仕掛けられたのか!いや〜ありがとうございます!助かりましたよ。よっしゃ!今日のレッスンは平和に終わりそうだなぁ〜」

「えぇ〜?・・あたし、ケン先生たちも一緒の方がよかったなぁ〜・・」
「のぞみ!わがまま言わないの」
「だってだってりんちゃぁ〜ん・・」

陽気そうな声を上げるバットとは対照的に夢原のぞみは不満気に口を尖らせる。
そんな彼女を夏木りんが窘めているが、不満そうなのはのぞみだけではない。響やえりか、うららや舞などもなんとなく残念でつまらなそうである。
本当に空気が読めない、所々で行動がおかしい一種変人の領域にあるケンシロウの一体ドコにこれだけの人望があるのだろうか?バットにしてみればほとほと理解に苦しむところだったが、そんな考えを表情に出さないように振舞いながら努めて明るく、笑顔で彼女達に声をかける。

「こ・・今回は予定が合わなかっただけだからね〜、ホラ、のぞみちゃんも元気出して!レッスン頑張って、みんなでケーキで打ち上げしよう!な?」

その言葉にのぞみは「あ!そうだ!ケーキ!w」と叫んで途端にぴょんっ!と飛び跳ねて響やえりかの手を取ってブンブンと振り回しながら笑顔で言った。

「ケン先生が来れないの残念だけどお、ココはひとつ!ケーキのためにみんなでがんばろうっ!ね?響ちゃん!えりかちゃん!」

そう言われて食いしん坊な響も、騒ぐのが大好きなえりかも笑顔になって「よーし!いっちょやりますかー^^」
「ここでキメなきゃ女がすたるっ!」と元気をあっという間に取り戻した。

「ケーキのために・・ってアンタ・・」

「まーまー、りんさん」
「アンタもタイヘンよねえ、りんちゃん。ま、アレはアレでのぞみちゃんらしいけど」

お馴染みに呆れかえっている夏木りん、その彼女を励ますように先輩の雪城ほのかと美墨なぎさが声をかけている。
バットも一安心である。
この底抜けの明るさと周りの思考や雰囲気までもポジティブに持って行ってしまう事こそ、夢原のぞみという女の子の魅力なのだろう。
そんな彼女にやれやれと思いながらも男性スタッフのメンバー、そしてプリキュアの妖精でもあるココとナッツが言った。

「のぞみ、あんまりはしゃぎすぎてケガだけはしないようにね」
「そうでなくてもお前は危なっかしいんだからな。先生方にも迷惑かけるんじゃないぞ」

「えへへ〜vわかってるってば!ココもナッツも心配いらないよぉ〜♪よーし、みんなでレッスンがんばっちゃうぞぉー、けって〜〜いっ!♪w」






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ちゃんちゃかちゃかちゃかちゃ〜〜♪ 
ちゃ〜ら ちゃ〜ら ちゃっちゃっちゃっちゃっちゃ〜♪ 
ちゃんちゃんちゃん♪

{おめでとうございま〜す!オリヴィエ社長さんが目的地に連続一番乗りで〜す}



「わぁ〜〜〜やられたぁ〜、またオリヴィエが目的地連続1番乗りだぁ〜」

「スゴイわねぇ〜vやっぱり次期社長の資質があるんだわvママ嬉しい♪」

「・・・・・」



{そして今回貧乏神がとりついてしまうのは・・・ジャギ社長さんで〜す!貧乏神との旅を楽しんでくださーい♪}



「ハイ!ジャギさんまた1文無っしぃ〜♪」
「ハイ!ジャギさんまた1文無っしぃ〜♪」

「〜〜〜グッ・・グググ・・・」

「そして借金地獄ぅ〜〜♪」
「借金地獄ぅ〜〜♪」

『イエイ!』  パチーン !

「うるせえぇぇーーーーーっっ!!おのれえぇっ!サイコロめええっ!ことごとくことごとく1の目しか出ねえじゃねえかどうなってやがるぅ!?コレもケンシロウの仕業かあ!?おのれケンシロウーーーっっ!」


「・・・ねえ、父さんも母さんもさあ、ホントに仕事しなくっていいの?」



ココはプリキュアちゃんたち、PCA21の勢力に敵対する悪の秘密結社。
ワルサーシヨッカーの本社ビル、その社長室。
そこの社長の息子、藤原オリヴィエは、またしても平日の午後に自分が学校から父の経営する会社に顔を出したとたんに母も交えてテレビゲームで盛り上がるお馴染みの光景にタメ息をついた。
平日の午後にゲームで盛り上がる大人などという酔狂が許されている輩などニート連中ぐらいのものだろう?
父は本当に仕事をしているのだろうか?そして今回は母まで・・・
オリヴィエは両親の近頃の生活態度を本気で心配していた。
そんな息子の健気な気苦労などまるでアウト・オブ・眼中であるかのように陽気に笑いながら父が肩を抱いてくる。


「どう?面白いだろこのすごろくゲーム!父さん昨日買っちゃったんだv『芋太郎電鉄・スーパーDX!』全国の駅にある物件を買い占めて資産を増やしちゃうんだぁ〜vコレは会社経営や地理のお勉強にもなるんだぞぉ〜v」

「さっすがパパ!冴えてるぅ〜!♪オリヴィエの教育にもピッタリのゲームね!」

「うおおぉ〜〜〜〜っっこのフンドシ姿のフザケタ恰好の貧乏神!『うんちくさいカード』とかワケのわからんカードを2倍の値段で買ってきやがった!ふざけやがっておのれえぇ〜〜〜〜っっこうしてくれるぅ!」

「あーーーっっジャギさんヒドイ!勝手に電源切ったぁ〜〜っっ」
「きゃぁ〜〜っっなんてことするんですかぁ〜っ!せっかく富山の鱒寿司屋さんと大阪のタコ焼き屋さん買ったのにぃ〜、もう!そんなコトすると友達なくすわよジャギさん!」

「・・・なにやってんだか・・・」


たかがゲームのコトでまるで子どものように大人気ないケンカをはじめる父と母とヘルメットのオッサン。
オリヴィエはもはや相手にする気すら失せ、彼等から目を逸らし、社長室に備え付けてある冷蔵庫からお気に入りのヨーグルトを取り出した。
と、その時。


コン コン


「あ?・・父さん、母さん。誰か来たみたいだよ」


騒がしい社長室のドアをノックする音。
それに気づいたオリヴィエが両親にそのコトを知らせる。
しかしサラマンダーもアナコンディもジャギとくだらない言い合いをしているのでまるで気づいていない。
やれやれと、仕方なしにオリヴィエが応対に出る。

「ハイハイ、どなたですか?」

「ハァイv社長さ〜ん、いらっしゃるぅ〜?」

オリヴィエの前に現れたのは、明るめのブルーの髪が美しい、妖艶な感じのする女性だった。
胸元が空いた過激かつ、独特なフリルがあしらわれた奇抜な服装を着ていたが、強調するだけあってグラマスな肢体をしていた。
彼女は腰を振って優雅に部屋に入ると、声高にサラマンダーに呼ばわった。

「ハローv社長さん♪最近ウザイナー部門でも聞いてますわよぉ?例のプリキュアって小娘ちゃんたちのコト」

「ん?おや!シタターレくんじゃないか!」

「あら、ウザイナー部門の水下嶺(みずしたれい)さんじゃないですか」

「あらん、専務もいらしたのねぇ、そうよぉ水下嶺、コードネーム、ミズ・シタターレ!参上よ!」

部屋内に入ってきた女性の甲高い声を聞いて、それまでワイワイとゲームのコトで騒いでいたサラマンダー・藤原も、妻のアナコンディもそしてジャギも静まり、彼女の方へと注目した。
ミズ・シタターレと名乗った年増の女性は胸元から扇子を取り出すと、それでパタパタと自分を扇ぎながら、サラマンダーにこう進言した。

「社長さん、そのお嬢ちゃん達、アタクシに始末させてもらえないかしら?」

「ほほう!シタターレくん、今度はキミがプリキュア戦士のお嬢様方を懲らしめてくれるというのかい?」

「もちろんよ!カレハーンもモエルンバもドロドロンも情けないったらありゃしない!ウザイナー部門の恥だわ。アタクシがホンモノの悪党戦い方ってモノでアイツらを黙らせてやりますわ!」

「なにィ!?キサマこの俺を差し置いて悪党を名乗るとは生意気な奴め!どうやら立場をわからせてやる必要があるようだなぁ〜?オイ!お前!俺の名を言ってみろォ!?」

「はあ?ダレよアンタ?知らないわよアンタなんか」

「ああ、キミにはまだ紹介してなかったねシタターレくん。紹介しよう彼が私の新しいパートナーの・・・」
「クックック・・ビビッて声も出ねえか?いいだろう!ならば教えてやろう!俺の名は北斗神拳の伝承者!霞じゃ・・・」

「お黙り!鬱陶しい!」


「あ、ハイ、スンマセン・・・」


と、いつもの調子で名乗りを入れようとしたところで予想以上にシタターレさんにキレられ、逆にビビッてそそくさと引っ込むジャギさん。
彼のことを紹介しようとしていたサラマンダーもシタターレの予想外の一言に慌てて言葉を飲み込んだ。そして咳払いをしてこう言った。


「ん・・・ご、ゴホン!そ・・それでは、とにかく自信はあるのかね?シタターレくん」

「もちろんですわ社長さん!吉報をまってらしてな」

「イヤイヤ楽しみだねえ〜、じゃ!ヨロシク頼もうかな?あ!でもくれぐれも油断しないようにね〜、失敗したらキミにも罰ゲームちゃんとあるんだから」

「今までのヤツラのような失態は演じませんコトよ!でわ〜w」


そう言い残してミズ・シタターレは優雅に社長室を出ていった。


「今度こそ成功してあのプリキュアのお嬢ちゃん達をギャフンと言わせられればいいわねパパ〜v」
「うん!僕もそう思うよママ〜vね?ジャギさんもそう思うでしょ?・・・アレ?」

と、シタターレさんの自信たっぷりな態度に期待感を膨らませ、テンションが高まる藤原夫妻。ジャギにも同意を求めようと声をかけたが、彼はその傍らでしょんぼりと膝を抱えていた。

「・・・ジャギさん?ど・・・どうしたの?」

「さっき、あのシタターレさんとかいう人にキレられて、落ち込んでんだよ」

「そ・・・そう・・・」

アナコンディもオリヴィエにそう聞いて冷や汗混じりで彼の方を見る。
驚くほど気の小さい人だな、とアナコンディは思った。



「その・・・・ジャギさん?みんなで・・・喫茶店でも行きましょうか?気分転換に」
「い・・いいわねぇ〜パパぁ〜、じゃ、もう今日は仕事上がりましょ?ね?オリヴィエも一緒に来るわよね?」
「え〜?・・・じゃあホテルカサンドラの中にあるレストランの、あのトリプルタワーパフェね」
「わかったわかった。ジャギさんは?」
「・・・・・」
「結構・・・ですかね?じゃあ私達だけで・・・」
「オイ、サラマンダー」
「・・ハイ?」
「・・・・そのとりぷる・・たわば?ふぇ?・・・とかいうモノは?おいしいのか?」
「・・・・あ・・来るんですね」



どうやらジャギさんは、仲間外れはもっとイヤだったようだ。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「ココが妖星シアトリカルアカデミー?」

「ふえ〜〜・・おっきいタテモノぉ〜」


目の前に広がる大きなビルディングにPCA21一行は目を奪われた。
白い外壁に真っ赤な鶴が大きく描かれ、その周りに一面の花畑が描かれた何ともド派手な装いのビルであった。
正面玄関には金ぴかの文字で「YOSEI・Theatrical・Academy」と書かれている。

「いいか、今日は見学なんだから、各自くれぐれもスタジオ内のスタッフさんには失礼の無いように!五車プロモーションのアイドルとして、一人間として恥ずかしくない行動をとるように!いいな!」

とベラ先生が少々キツめの声色でメンバー全員に檄を飛ばす。その言葉に『はぁい!』と元気よく答えるプリキュアメンバー達。
全部で合計23人のメンバー達、考えてみれば中々な人数である。悪戯っ子お転婆娘も点在しているプリキュアメンバーのこと、これだけの人数をちゃんとイイコで見学させるほうも考えてみればしんどい立場である。
まあ、彼女達とて、ハメを外せば帰ってから先生達のお膝の上でイヤと言うほど泣かされるのはわかっているであろうからそうそう突拍子も無い事はしまい。そのためにベラ先生も一応釘を刺しておいたのだ。


「じゃあ、入りましょうか」

レイナの声に合わせてアカデミーの建物内に入場していくプリキュアメンバー達、そこかしこから「楽しみ〜」「どんなトコだろぉ〜?」と期待感溢れる声が聞こえてくる。

「大丈夫よバットくん、バットくんも私たちもアレだけ念を押してイイコでいるように言ったんだから、心配しなくても何事もなく終わるわ」
「ハイ、そうっスね」

と、そうマミヤに言われてバットも笑顔で答える。
しかし、バットの心の中には何か拭う事の出来ない一抹の不安がどうしても残っていた。



(・・・・う〜ん・・・このコたちのコトより・・・なんかもっと・・こう・・イヤな予感がするんだよなぁ〜・・・ココ・・)






ワイ ワイ ガヤ ガヤ きゃい きゃい ♪


レッスン室に入ると、意外にも彼女達と同じ年頃の女の子たちが大勢いた。
彼女達の楽しく談笑する声でレッスン室は大いに賑わっている。
大勢が集まれるほどの十分な広さを有したレッスン室は室、という言葉も憚られるほどの広大なアリーナのようだった。
中央に本格的舞台さながらのステージを構え、周囲には整備の行き届いた音響設備。
さらにはリハーサルを指導者や関係者たちが一度に鑑賞できるほどの数の客席まで備え付けられていた。
照明も十分、そして大きなカーテンが備え付けられた自分たちの動きを観察しながらレッスンができるための巨大な鏡まで設置されている。
その何から何まで十分過ぎるほどの環境に、バットやマミヤたちすら感嘆した。


「へぇ〜・・こりゃスゲエや・・・ウワサになるだけのモノってコトだな・・・」
「ホント、ここまで設備の行き届いた個人のレッスンスタジオなんて、ちょっと私も記憶にないわ・・・この部屋もホントに掃除が行き届いてキレイだし・・・ん?」

「どうしたんです?センパイ」

と、急にマミヤの視線が鏡の上部にあるとあるものを捉えて制止したことにレイナが気付いて声をかけた。
マミヤは怪訝な顔で黙り込んでそのあるものを食い入るように見つめている。
そこにあるものとは?レイナもその視線を追って見てみる。
すると、鏡の上部には菱形に縁どられた金枠でその中央に同じ金の装飾で UD とイニシャルがとられていた。


「・・・あのマークがどうかしました?」
「い・・いえ・・・ただ・・・どこかで見たことがあるような気がぁ・・・」

そこでう〜んと考え込んでいるマミヤがレイナも気になったが、そんなコトを気にする余裕がすぐになくなってしまった。
あまりの豪奢なレッスン室に興奮した幾人かのプリキュアメンバーのお嬢さま達が、やはりというべきか、案の定というべきか?


「すっごぉ〜〜〜いっ!!♪キャハハっ!ひろぉ〜〜〜〜いぃ〜〜vv」
「ココでダンス踊っちゃおうかなぁ〜?ビートアーップ!なぁ〜んてね♪」
「ヤッホぉ〜〜〜っっ!きゃ〜〜w声が響くぅ〜〜っ!」
「こんなに広いんだぁ〜っ!テレビで見た時よりも広ぉ〜〜い」
「こんなステージで練習できたらもぉ、最高ぉ〜〜〜っっ!」


と言う感じにはしゃぎまわってしまったのだ。
レイナやベラ、サクヤはマミヤの態度よりも彼女達を治めるのに早神経をすり減らしてしまっていた。


「こらぁ〜〜〜っ!アンタたちぃ!約束はどうしたの!?してきたばっかりでしょ!」
「約束破るような悪いコはどうなるんだったぁ?」
「そうよぉ〜?ホラ、ちゃんと静かにする。もうすぐ先生も見えられるでしょうし、言うコト聞かないと・・・オ・シ・リ、どうされるんだったかなぁ〜?」


と、早くも先生たちに咎められ、やってしまったとばかりに騒いでいたメンバー達は青ざめてすぐにおとなしくなる。
はしゃぎまわっていたメンバー、夢原のぞみ、桃園ラブ、来海えりか、明堂院いつき、春日野うららの計5名を見て、レイナたちはやれやれと頭を抱える。バットもしょうがないなぁ、という顔だ。



「ねえねえ、アレっていま話題のPCA21じゃないのぉ?」
「ホントだあ、ホンモノよね〜vいいなぁ〜アイドルかぁ〜」

と、先にレッスン室にいた女の子たちが、そろってそんなことを話しているのが聞こえた。
ウチの子達もやっぱり有名になってきたんだなぁ〜、と思っていたバットたちだが、そこでこちらも気づいた。

「ん?マミヤさん、あのコたちって・・・」
「先生、あの人たちってさあ・・」
「もしかして・・・」

「ええそうよ。あの有名な少女HIPHOPダンスチーム、A−GIRLSよ」

バットと奏、りんの問いかけにマミヤがそう答える。
その先生の言葉を聞いて、とたんにプリキュアの女の子たちも「ウッソー!?ホンモノぉー!?」「うわぁ〜vA−GIRLSだぁーっ!♪」「あたしCD持ってるぅ〜♪」とコチラも騒ぎ出す。

そう、実は先にレッスン室へと入り、PCAメンバーを見て「ホンモノのアイドルだぁ〜」と憧れるような言葉を述べていた彼女達もPCAとほぼ同時期に日本歌謡曲界に電撃デビューしたティーンズ女子のカリスマダンスチーム、A−GIRLS(エーガールズ)のメンバーだった。
日本だけでなく世界を股にかけて活躍する超一流ダンスチーム、「ABEJAYLE」(アベジャイル)の妹分チームで実はABEJAYLEは五車プロモーションとも親交があり、同じ五車プロモーションのアイドルグループ、新鮮組の作詞作曲をABEJAYLEのリーダー、HIROKI(ヒロキ)にお願いしていたりもした。

そんな関係を知ってか知らずか?はたまた同じような年頃の女の子同士ということもあったのか?
もうお互いのお嬢さまたちは自己紹介を交え、一緒に楽しくおしゃべりをはじめたりと、初対面にもかかわらずすぐに打ち解けていた。
こんなに早く仲良くなれるのならば、今度上に掛け合って双方でコラボレーションなどを行ってみても面白いかもしれない。
などとちょうどマミヤとサクヤが相談していたその時だった。



ジャーン ジャーン ジャンジャン ♪

ジャーン ジャーン ジャンジャン ♪



いきなり大音量でオーケストラのレクイエム「怒りの日」が聞こえて来たのだ。
突然のボリュームにビックリするPCAメンバー達、その音楽に今まで仲良さそうにおしゃべりしていたA−GIRLSの女の子たちの間に緊張が走った。慌てて整列する彼女達。
そのただならぬ気配に、バットがやはり何かを感じた。


(な・・なんだなんだ?なんか・・・・とてつもな〜〜くイヤな予感すんなオイ〜〜・・・)




「一同せいれーーつ!先生のお出ましであ〜〜〜る!」



と、現れたのは真っ赤な軍服のような装いをした口髭が特徴的な長髪の男だった。
彼が会場全体に聞こえるような声でそう言うと、とたんに重厚そうなオーケストラがパッパラパッパー♪とトランペットの奏楽に代わり、そして・・・



ついにその先生とやらが姿を現したのだ。




「フ〜ンフン♪フフ〜ンフン♪フフフフ♪フンフンフ〜ン♪・・・ハ!」




何やらクルクルと鼻歌混じりに回転しながら登場したソイツは中央でビシッと停止した。
真っ赤でウェーブした長髪。
それとはアンバランスに鍛え上げられた筋肉。
そしてその肉体を惜しげもなく見せびらかすような衣装・・・イヤ、もはや衣装ではなくただのフンドシ姿然とした腰巻一丁の姿。思わずPCAの子達からは悲鳴とどよめきが上がった。

ソイツが後ろを向いたまま、声高にこう言いだした。

「ヘェ〜ロウv可愛いフェアリーちゃんたち、フェアリーちゃんたち!ワタシは美しいかしら?」

『ハ、ハイ!ユダせんせい!』

「そう!そのとぉ〜〜〜りぃ!ワタシはこの世で最も強く!」

その問いにA−GIRLSの女の子たちが揃って答えると、ソイツはついに振り返った。
アイシャドーばっちりに口紅ベッタリの素顔のソイツ。

もはや間違いなかった。


完璧だった。


カンペキなまでの・・・・・・ヘンタイだった。


「そして美しい!」





(イヤな予感的中うぅ〜〜〜〜〜〜っっっ!!ナニ、このアヤシイヒトーーーーっっっ!??)



と、またしてもイヤな予感が当たってしまったコトにバットは悲痛な心の叫びを上げる。
どうして自分はこうも運が無いのか?
しかし彼に追い打ちをかけるかのように衝撃的な一言が、この人から発せられた。



「アナタ・・・ユダ!?」

「え?」

『え?』

「ん〜〜?」



「んなっ!?ちょっ・・アンタ!マミヤ?マミヤじゃないのよ!んなんでアンタがこんなトコロにぃ!?」
「やっ・・やっぱり・・・ユダ・・・」





『えええぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!??』

『えええぇぇーーーーーーーっっ!!??』


「2人とも知り合いいぃいぃーーーーっっ!??」



と、衝撃の事実にレッスン室に、プリキュアメンバーとレイナたち、A−GIRLSのメンバー、そしてバットの悲鳴の4重奏が木霊した。
もはや、先程までのレッスンの先生が変態然としていた際のショックが軽く吹き飛ぶ程の衝撃的事実であった。
マミヤの反応とユダと呼ばれた赤髪長髪若干オネエの変態男の反応、そして双方の固まった表情とお互いに名前を知っているという事実を見て取れば、この2人が知り合いというコトなど否が応でもわかるだろう。

しかし、マミヤの顔色がどことなく悪く、若干表情も引きつって見えることから、それほど良い間柄ではないのかもしれない。
驚きもあって、やや沈黙の時間が流れる。
やがて絞り出すようにマミヤが口を開いた。


「あ・・アナタが・・ココの講師?・・ハッ!そう言えば・・あのマークは・・・」

「クククク・・・マ〜ミヤ〜・・そう、アンタがまさか今話題のプリキュアオールスターズ21(トゥエンティーワン)のマネージャーだったとはねえ・・・そう言えば風の噂で聞いたことがあるわ。PCA21のマネージャーはメンバーの教育係の先生でえらく厳しいって・・・そう、マミヤ。不思議な縁ねえ、アンタとまたこうして会えるなんて・・・」

ユダと呼ばれる男が一歩近づくとマミヤがビクついて一歩後ずさる、そんな光景が繰り広げられる。
明らかにマミヤはこのユダという男を避けている。あのプリキュアちゃんたちのお転婆などんなイタズラにも平静冷静沈着なこのマミヤ先生がである。
バットは一体この2人に何が起こったのかと勘ぐらずににはいられなかった。


「あ・・・あの・・お2人は・・その、どういったご関係で・・・?」

「そ・・それは・・その・・」

「フン!ただの知り合い、昔馴染みよ。親しい仲じゃないわ。ねえ、マミヤせ・ん・せ!」
「え・・ええ!そう、そう・・です」

と、どことなく不機嫌に言う赤髪の男に、マミヤも慌てて、しかしどことなくぎこちなく同意してそう返事する。
変だ。明らかにおかしい。
ただならぬ雰囲気を感じながらも、本人たち同士がそう言い合っているのであれば、と納得しかねながらもバットもレイナたちもとりあえずは了承し、PCA、A−GIRLS双方のメンバー達に何も心配するようなコトは無いと安心させるように言い聞かせ、レッスンへと移ることにした。



(ウ〜〜ン、一体あの2人に何があったってんだ?)

そんなコトをバットはまだ考えていたが、とりあえずはレッスンをはじめようとしているプリキュアちゃんたちのためにタオルやドリンクを用意したりして忙しく働き出した。
その内に、そのちょっとイヤな予感のするどことなく妖しいユダ先生の演劇レッスンがスタートしたのだった。


「ハーイ、それではぁ!A−GIRLSのフェアリーちゃんたちぃ、今日のレッスンを開始するわよぉ。きょ・う・はあ、これからみんなと一緒にレッスンを受けることになったPCA21のグループも見学に来てるからみんなは先輩生徒としてお手本をみせるよぉーうに!」

『はぁーい!』

「ウフv結構よ。イイコね・・・ではまずこの間の続き、禁断の愛!ダンスミュージカル、炉芽男(ろめお)くんと樹里恵(じゅりえ)ちゃんの純愛のワルツの続きからよぉ!vレッツ、トラ〜〜いぃ?・・・んむうぅ!?」

と、レッスンを開始しようとしたユダ先生。
突然、床を凝視して目の玉をひん剥くと、部屋の奥の方にあるカーテンにツカツカと足早に近づき、そのカーテンをバサッとめくった。
そして何かを拾い上げると、「こっ・・こっ・・これはああぁ!!??」と大げさに叫んだ。
手に握られていたのはチョコスナックの袋だった。ユダ先生の叫びの直後、A−GIRLSのグループ内から「ひっ!」という小さい悲鳴が漏れ聞こえたのをバットもマミヤも聞き逃さなかった。
ユダ先生は顔をヒクヒクと引きつらせて絞り出すように言った。


「・・こ・・・こ・・ココでお菓子を食べたのはダぁ〜レ?」

そのユダの言葉にA−GIRLSの女の子たちは全員が凍り付いたように動かなくなり、顔を青ざめさせて冷や汗ダラダラ。
一言も声を発さなかった。
その独特の緊張した雰囲気にPCAのお嬢さま方も背筋がゾクゾクっと寒くなるのを感じた。

「だれかしらぁ〜?いないのかなぁ〜?ウソはせんせぇキライなのよねぇ〜・・・」

と、何か鬼気迫るような凄味のある笑顔でそんなコトを言うユダ先生にとうとう、A−GIRLSの中の1人がそろそろ〜・・と手を上げてこう言った。


「あ・・・あの・・ソレ・・アタ・シ・・です・・ゴメンナサイ・・・」

「あぁ〜らそう?わおんちゃんじゃないのぉ〜vなぁんだ、そうだったのぉ、ダメじゃない散らかしちゃ・・」

「は・・・ハイ・・ゴメ・・なさい・・・せんせえ・・」

ユダは急ににこやかな笑顔になってわおんと呼ばれた淡い蒼髪のショートヘアが特徴の愛らしい少女の前にツカツカと歩み寄り、その髪を優しく撫でた。

「でも正直に言えたのはぁ、エライわよぉ」
「ハ・・・ハイぃ・・あの・・だから・・そのぉ・・・」

なんだ。とっても優しいいい先生じゃん。
ウチの先生達よりよっぽど甘々。

と、そんな考えを一瞬PCAの子達は持った。
しかし、今だ怯えきった様子のわおんちゃん。
一体なぜ?



そう思った次の瞬間だった。




「だ・か・らv30発で許してアゲルv」







「ケエエェェェーーーーッッ!ケケケケっ!ケ!」



スパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパーーーーン   ッッ   !



「きゃあぁあああぁあーーーーーーーーっっっ」





「南斗・紅尻拳(なんと・こうけつけん)!」





何とユダ先生はあっという間にわおんちゃんを掴み上げ、横抱きに抱きかかえると彼女のレッスン用のハーフパンツとパンティを引き摺り下ろしてお尻を丸出しにすると、肉眼では捉えきれないほどの凄まじいスピードでわおんちゃんの可愛いお尻を数十発と叩いたのだ。
その間、実に2、3秒かかるかかからないか程。
わおんちゃんのお尻はお仕置きが終了して一拍置いてからやっとお尻全体が真っ赤に、鮮やかな紅色に染まり、ぷっくぅ〜〜〜・・・と5割増しくらいに大きく腫れ上がってきた。
キッチリと手形の刻印も何重にも押し付けられているのがわかる。



「うっ・・・うぅっ・・っつ・・・ふえっええっ・・痛い・・ぃたぁぃ・・・いだぁあぁいぃよおぉ〜・・・わぁあぁ〜〜〜〜ん・・・ああぁぁ〜〜〜〜〜ん・・えぇぇ〜〜〜ん・・・」


「神聖なレッスン室で飲み食い沙汰などもってのほか!己が汚した床に懺悔なさい!」


床に突っ伏して真っ赤っかに腫れたお尻を突き出してアンアンと泣きじゃくるわおんに、ユダ先生はただ冷酷にそう吐き捨てた。
同じA−GIRLSの女の子たちも、そしてPCAの女の子たちも、その光景を見てガタガタと震えていた。

とくに衝撃を受けたのはプリキュアメンバー達の方である。

今行われたお仕置きは彼女達もよく経験する、お仕置きである。
お尻ぺんぺん。
先生達の必殺奥義。
どんなベテランのメンバーも、それこそ高校生のなぎさやほのか、ゆりだってコレを喰らったらその痛さに泣いて叫んで許しを請う。
彼女達にとってはあまりにもお馴染みのお仕置き。

この先生もそのお仕置きを使うのか、とういうことにも驚いたが、何よりそのユダ先生の態度がプリキュアちゃんたちには衝撃だった。
自分たちとてお仕置きなど大嫌いだ。
彼女達がもっとも恐れているのは教育係の先生達を怒らせてしまうコト。そしてそれに乗じて生じるお尻ぺんぺんのお仕置きだ。
年頃の女の子としてパンツまで下ろされて丸出しのお尻を叩かれる耐え難い恥ずかしさ。
そしてそんなコトなどお仕置きが始まってしまえば即座に吹き飛んでしまうほどの耐えきれない苦痛。

しかし、今見たユダ先生のお仕置きと、マミヤ先生達のお仕置きとは根本的に違うところがある。

それはお仕置きの後だ。
恥ずかしくて、痛くて、とってもツラ〜〜いお仕置き。
しかし、お仕置きの後はマミヤ先生も、レイナ先生も、ベラ先生もサクヤ先生も散々にお尻を叩かれてその痛みに泣きじゃくっている彼女達を優しく抱きしめてヨシヨシとハグしてくれる。
真っ赤にハレたお尻を優しくナデナデしてくれて、髪を柔らかく撫でてくれる。
だからこそ、そんな怒ったら怖いケド、とっても愛情深くて優しい先生たちだからこそ、彼女達もお仕置きされたとしても納得できるし、例えその時一時的に先生なんてキライ!と思ったとしてもすぐに立ち直って甘えて、慕ってくる。

だが、このユダ先生の今見たお仕置きはなんのフォローもなければ言葉がけすらない。
ただ、懺悔せよと生徒に吐き捨てるだけ。
痛くて怖いだけのお仕置きだ。だからこそ、お尻ぺんぺんのお仕置きが当たり前のものとして慣れているはずのPCAの子ども達にとってもこのユダのお仕置きは衝撃だった。

こんなのお仕置きじゃない!

そんな思いでユダを納得できない表情で見つめていたプリキュアメンバーの中から、今だに床に突っ伏してびえびえと泣き喚いているわおんに向かって1人のメンバーが飛び出した。



「だ、大丈夫!?和音!?」

「うっえっ・・・ひ・・ひびきぃ〜・・・大丈夫じゃ・・ないよぉ〜・・いたっ・・いたい〜〜・・・」

チームスイートの北条響だ。その響に続いて奏やラブ、のぞみといったメンバーたちも次々に和音のもとへと駆け寄る。
このわおんちゃん、実はプリキュアメンバー達と同じ学校、愛治学園の生徒で、西島和音(にしじまわおん)。
響と仲が良く、彼女同様勉強の成績は散々だがスポーツはすこぶる得意で、その運動神経の良さと青い髪が特徴の愛らしい顔立ちでA−GIRLSのメンバーとしてスカウトされた子である。
凄惨なお尻叩きを受けた女の子が同じ学園に通う友達だということもあって、プリキュアのお嬢さま達はすぐに寄り添って彼女を気遣い始めた。
痛い、痛いと泣きじゃくる和音ちゃんを特に仲良しの響などは一生懸命に彼女の背中をさすって上げたり、先生にしてもらうかのように腫れてしまったお尻を撫でて上げたりしたのだが一向に泣き止む気配はない。
どうしたものかと困ってしまって「せんせえ〜・・」とレイナを見上げると、レイナはやれやれといった感じながらも笑ってうなづき、和音に近づいて彼女を抱き上げると、背中をトントンと優しく叩きながら、ヨシヨシとハグしてあげた。
自分を抱きしめてくれた人が良く知る、自分の通う学校の松風レイナ先生だと気づいた和音ちゃんは、安心したのか、胸に顔をうずめてようやく落ち着いたようにだんだんと泣き静まり始めた。
対して、少女を暴力ともいえるような疾風の折檻によって泣かせたユダ先生は、その様子に満足したようにこう笑った。

「ホッホッホ、どうやらこってりと効いたようね。やっぱり女の子を躾けるには我が拳、南斗紅尻拳でお尻を叩いてあげるのが一番ねえ」

「サディスティックな人ね。相変わらず・・・」

と、若干冷めた目で自分を見つめながらそんなコトを呟くマミヤに、ユダは逆に軽蔑したような眼差しを向けながらこう答えた。

「コレが妖星シアトリカルアカデミーの・・ワタシの教育方針よ。ちゃぁんとこのコトだってこのコ達の親御さんたちに了解とってあるんだから、部外者が口出ししないでほしいわね。大体人のコト言えて?アンタだって言うコト聞かなきゃその子達ひっぱたいてんでしょうに?」

「わたしはアナタとは違うわ。そんな一方的な体罰はしない」

「んま!相変わらずナマイキな子だコト!あの時とちっとも変ってないじゃないのよ!」

両者一歩も退かず自らの意見を展開し合うマミヤとユダ。一体この2人に過去どんな因縁があったのだろうか?バットもレイナたち他の教育係の先生たちも勘ぐらずにはいられなかった。

「とにかく、アンタたちワタシのレッスンを受けに来たんじゃなくて?アンタがそういう態度ならワタシこの申し出断ったっていいんだけど?どうする?」

「うっ・・・」

「アンタだってそうなったら立場上マズイんじゃないかしら?自社のアイドルを売り込むマネージャーがそんな個人的感情でせっかくのレッスンをフイにしちゃあ・・・ねえ?」

「せ・・・センパイ・・」

「マミヤさん、ココは・・・悔しいけどこの人の言うとおりっスよ」

「そうだな。私たちの仕事はあのコ達にアイドルとしてもっともっと様々な経験を積ませて芸能界を長くわたっていけるように成長させることにある。そしてプリキュアとしてこの世の悪を正すための闘いを立派に果たすために」

「マミヤ、アナタと彼の間にどんなことがあったのかは聞かないけれど、今は子ども達のために自分を抑えて。アナタならできるでしょう?」

と、他のマネージャーメンバーに言われてマミヤはやっと我に返った。
その通りだとかぶりを振って今の自分の態度を反省し振り切った。

(そうだ。今の私はPCA21の、このコ達のマネージャーなんだ。それに教師でもあるその私が個人的感情にとらわれてせっかくこのコ達のためになるチャンスを潰していいわけがない)

「・・・ユダさん」


「?あらなによ?急にあらたまって」

「先程は失礼しました。申し訳ありません。どうか、アナタの演劇レッスンをPCA21の子達にご指導お願いいたします。このとおりです」

と言って、マミヤはユダの前に進み出ると、丁寧に謝罪の言葉を述べ、深々と頭を垂れた。
この行為にバットや他のマネージャーメンバーはおろかユダさえ驚いた。面喰ったユダは

「ふ・・・フン!なによソレ、案外アンタも張り合いの無い子だったのね・・・でも、まあいいわ。指導してアゲル。さあさ、レッスンの続きをするわよ!では、PCAの子達もよぉく見ておくように、明日からは新しい内容のミュージカルを実際にやってもらうからね」

と少しばかり言葉に詰まりながらも何とか威厳を保とうと突っぱねたような答えをマミヤに返し、パンパンと手拍子を打つと生徒たちとプリキュアメンバーにそう告げた。


ダンスミュージカルをもとにしたユダのレッスン指導は流石に業界大手の看板を掲げるだけあってか実に見事で、本場アメリカやイギリスのミュージカルを見慣れたベラですら、その適格かつ、演技の本質と的を射た生徒への指摘、アドバイス、指導力と演技構成力に唸らざるを得ない程だった。
それはマミヤたちも、素人ながらバットの目から見ても確かで、少々性格と気質に難はありそうだが、ユダのレッスンを受ければプリキュアの子ども達はこの芸能界でまた一段と成長できると確信させるほどのものだった。
1日目はあっという間に過ぎ、プリキュアメンバーの子ども達もユダのレッスンとそれをこなすA−GIRLSのメンバーたちにすっかり見惚れて感嘆の声を漏らしていた。


「じゃ、今日はここまでにしましょうか?」

『ありがとうございましたぁーっ!』
『お疲れ様でしたぁー!』

「ハイどーも、ごくろーさま。明日もしっかりね。あ、あとPCAのお嬢ちゃん達もv明日はアナタ達にも簡単なミュージカルをやってもらうからね〜」

と、意気揚々とそう言って引き揚げていくユダの背中に向かって、雪城ほのかが号令をかけ、『ありがとうございました!』と元気に挨拶するPCA21の面々、久しぶりのホームスタジオ以外でのレッスンに緊張していたのか、ユダが去った後にハァ〜〜・・・とわかりやすく脱力する者も多かった。
しかし今日は子ども達だけではなく、いつもはそんな気の抜けた態度を律するマミヤ先生も「フゥ・・・」と疲れたように息をついて俯いた。
バットはそんないつも見ないマミヤの様子にやっぱりあのユダって人と何か深い・・・それこそ因縁めいた関係があるのだと感じていた。





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「それじゃ、明日も今日と同じあの塾でレッスンを受けることになるから、各自、寄り道しないでまっすぐおウチに帰るように。解散!」

『はーーい!』
『お疲れさまでしたぁーーっ!』


所変わって五車プロモーションスタジオPCA。
レッスンを終えて帰ってきたプリキュアメンバー達は、レイナ先生の短い話を聞いた後、それぞれの家路に帰って行く。
メンバー同士談笑しながら帰るもの、先生の注意もロクに聞こえずはしゃぎまわりながら帰るもの、礼儀正しくスタッフ1人1人に挨拶して帰るもの。
眺めていると、子ども達の個性が実によくわかる。
スタッフの1人、バットにとってはもう見慣れたいつも通りの光景。
しかし、そんな中、やはり気になるのはマミヤの様子だった。
表には出していないがあの妖星シアトリカルアカデミーにて講師のユダと名乗る男と面してから明らかに様子がおかしい。子ども達にはわからぬようにしていたのだろうがカンの鋭い子は気づいているかもしれない。
どこか上の空というか、それでいてハア、と時おりタメ息をついたりしたりといつもの姿ではない。
レイナやベラ、サクヤという他のマネージャーたちも気づいている。
そんなマミヤはバットたちの気づかいなどおよそ感じていないようで、離れた所で黙々と例によってお転婆なメンバー達が脱ぎ散らかしていった衣装を畳んで片付けていた。

「・・・ん?どうしたの?みんなして・・わたしの顔に何かついてる?」

「え?いっ・・いや!なんでもないっス!」

「そう。今日は色々疲れちゃったわ。明日学校もあることだし・・・お先に失礼させてもらうわよ?」

「あ・・ハイ、あの・・お疲れさまっス・・・」

と、マミヤはたんたんと片付けを終えると、そのまま簡単な言葉をバットたちに残して帰って行ってしまった。
後に残されたバットたちはマミヤが去って行ったドアの向こうをしばらく無言で眺めるだけだった。




「・・・やっぱり、なんかいつもの調子じゃないっスねマミヤさん・・・」

「ホント、センパイのあんな姿わたしもはじめて見たかも・・・」

「あのユダって男と何があったのか知らないが・・プリキュアのコ達だってこれからアソコで定期的にレッスンを受けるっていうのにあんな調子じゃ先が思いやられるな」

「わたし達がその分しっかりとあの子達の面倒見なきゃならないかもね・・・」

と、それぞれがそれぞれ、同僚であるマミヤの事を案じている。バットとしてもいつもなにかと世話になっているマミヤである。独身で1人暮らしである自分の健康や暮らし向きを気遣って食材やおかずを差し入れてくれたことも何度となくある。
こういう彼女にとってなにか難しい時にこそ自分が恩を返す時だと思っていた。

(まあいいや、マミヤさんたちにはオレもいつも世話になってるコトだし・・・何かあったらオレの出来る範囲で力になってやるとするか)






「んねぇ〜〜〜!ナニナニぃ?せんせいたちみんなでナニ話てるのぉ〜?」

「おわっ!?・・・ビックリした・・・って、のぞみちゃん!?」
「のぞみ!アナタ帰ったんじゃないの?」

と、マミヤのことで幾分心配そうに相談していたバットたちの間に突然割り込んできたのは、桃色のショートなツインテールが特徴の愛治学園中等部2年、プリキュアメンバー、チームファイブのリーダーであるキュアドリームこと夢原のぞみだった。
先生たちの深刻さなどどこ吹く風。満面の無邪気な・・一種能天気さすら伺える笑顔を湛えながら目をクリクリっとさせてバットやレイナたちを見回した。

「のぞみ!アンタなにやってんの!?」
「のぞみちゃんダメだよぉうっ」
「先生たち大事なお話してるから、ジャマしちゃダメナリぃ〜」
「ってか、アンタあたしにアイスおごってくれって言ってなかったっけ?なんだってこんなトコにいんのよ?」

「だってえ、なんかみんなマミヤ先生のコトでお話してたみたいだし・・・ねえねえ何何!?教えてっマミヤせんせーがどうかしたの?」

「い・・いや・・別に・・・ねえ?」
「どうかしたって・・程のものじゃないと思うケド・・・」

「えぇ〜〜?ウソぉ!バットさんとかレイナ先生の顔なんかおかしかったもん!ねえねえどーしたの?教えておしえてぇ〜〜っ」

困った。
バットもレイナたちもお互いの顔を複雑な表情で見つめ合った。
確かにマミヤの様子はおかしいのだが、それをこのあっけらかんが日常となっているお気楽天然娘に話しても良いモノか?なにか事態がさらにややこしくなる気がしてならなかったからだ。
しかし、そのお気楽娘が騒ぐことによって、のぞみの後から部屋に登場した他のプリキュアメンバー、同じチームファイブの夏木りん、チームフレッシュの桃園ラブ、チームスプラッシュスターの日向咲、そしてチームマックスハートひいては今のプリキュアオールスターズ21のメンバー総リーダーと言ってもいい美墨なぎさも、のぞみの言葉を聞いて

「え?マミヤ先生がどうかしたの!?」
「なにかあったんですか!?」

と口々に尋ねて来たので、もはや隠しようもなかったので、今日のレッスンの後のマミヤの様子をレイナがかいつまんで説明した。

「ふ〜ん・・なるほどぉ。あのユダって先生とマミヤ先生がかぁ〜・・そう言えばあの時もお互いのコト知ってる感じだったしね」
「うん、まあ知り合いってコトはわかりましたけど・・・でも・・もしかして・・マミヤ先生の元カレだったりとか?」
「ええぇぇ!?ウソぉ!?ないないないってラブちゃん!それはない!」
「なによ、りんちゃん。アンタの好きそうなイケメンな先生だったじゃん」
「イケメンって・・・なぎささんダイジョブですか!?あたし言われるほど面食いじゃないし・・第一美形でもあんな口紅ベッタリなモロオネエ系のヒトなんてあたしマジムリ!お断り!キモイ!あんなキモメンとマミヤ先生がなんて失礼ですよ!」
「いや・・・別にそこまでボロカス言わなくても・・ジョーダンだってば・・・」
「なぎささんのジョーダンってちょいちょいタチ悪いからキライですあたし!」
「あ・・・アハハ・・で・・でさ、バットさん、先生たち・・・その、あのシアトリカルアカデミーの講師のユダって人と会ってから、マミヤ先生の様子がおかしいから、心配・・・そーゆーワケですよねぇ〜」


と、自分の軽いジョークをりんにややギレされたなぎさは彼女に圧倒されたまま言葉に詰まり、誤魔化すようにバットたちにそう言って状況を聞き直した。
するとバットに代わってサクヤがなぎさに答えた。

「まあ、すべてがあのユダって人のせいだとは思わないケド、今まであんな事なかったマミヤの性格からすると、その一因ではあると思うわ」

「そうだな。だが、なににせよ明日からは本格的にあそこでお前たちはレッスンを受けるんだ。マミヤ先生のことは私達、他の先生方にまかせてお前たちはレッスンのことと、ステージのコト。それからプリキュアのコトと学校のことだけ考えていればいい。余計なコトはしないことだ」

「ちがうよベラ先生!」

「!?・・・え?ちょっ・・アンタ?」

「のぞみ・・・ちゃん?」

ゆっくりと、優しく言い聞かせるように言ったベラ先生、そんな先生に向かって強い口調で反対の意見を述べたのは、のぞみだった。
突然まさかの反論に幼馴染のりんも仲良しのラブも驚いた様子で彼女を見つめる。
その表情はお気楽な彼女が時おり見せる真剣な顔。何がそうさせたのかはわからないが、少々生意気な物言いだった。しかしベラは言葉を選んで、彼女をイラ立たせないように、そして自分もイラつかないようにと慎重に問い返した。

「・・・何が違うんだ?のぞみ」

「マミヤ先生はみんなのマミヤ先生だもん。助けるなら先生たちだけじゃなくってみんなで助けてあげないと、みんなでマミヤ先生を元気にしてあげなきゃ。ね?りんちゃん、ラブちゃん!なっちゃんセンパイたちも!」

「え?い・・いやだからぁ・・・それはそーなんだけど、ベラ先生達が言ったように、とりあえずは先生たちにまかせて・・・あたしたちは自分たちのことしっかりやったほうが・・・」
「そうだよね!のぞみちゃん!あたしもちょうどそうおもってたのォ!あたしたちも、ううん、み〜んなでマミヤ先生を元気づけたあげた方が、しあわせゲットだよね!」

「って、ラブちゃん!アンタもハナシ聞いてた!?そーじゃなくて・・・」

「よーし!とにかく、なんか楽しい事してマミヤ先生を元気づけてあげよう!ね?いーでしょ?先生たち?」

「ってアンタ人のハナシ聞きなさいっての!」

「アハハ・・・2人ともりんちゃんのハナシ聞いてないナリね・・・」
「あのコたち乗らせるといつものコトでしょ?う〜ん・・もうありゃダメなんじゃない?あたし達が言ったって聞きゃしないわよ」

と、すっかり自分たちでマミヤをいつもの調子に戻してあげようと勝手に納得しているのぞみとラブ。
その想い自体は先生想いの優しさであるから自分たちとしてもありがたいのだが、レイナもベラもサクヤも、そしてバットも互いに顔を見合わせて不安な面持ちになった。

のぞみは確かに明るく前向きで人懐っこく、人の悪いところに気を留めようとしない。
素直な本当に良い子なのだが、何でもかんでもバカ正直でそして無鉄砲。後先のことをよく考えず、そして自分の思いに忠実すぎるところがある。
そのくせ、キライなコトはなるべく怠けようとするし、さらに天然かつ暴走しがちでナチュラルにとんでもないことをしでかすところがあるのだ。

それ故に悪気はないのだがイタズラの数はトップクラスでえりかや響と争ってお仕置きされる回数も最も多い。

動機は決して悪くないが今回の彼女の考えにも、一抹の不安が拭えないのは当然と言えた。それをよく理解しているからこそりんも止めようとしたのだが、似たような思考のラブまでのぞみ側についているのでもはや彼女にも、もうどうしようもない。咲やリーダーのなぎさですらもうすっかりお手上げと諦めている
やや逡巡した後、レイナがのぞみにこう言った。


「・・・わかった。アナタがそう思うならそうしてあげなさい。ただし!違反したり、みんなに迷惑かけるようなコトだけは絶対にしちゃいけませんからね?のぞみ、先生とお約束できる?」

「やったあぁーーーっ!vvハイハイハ〜〜〜イ♪♪ダイジョウブでぇーーっす!それどころか迷惑じゃなくってみんなとっても楽しくって嬉しい気持ちになっちゃうもんねぇ〜v」

「のぞみちゃんどんなコト考えてるのか楽しみだなぁ〜♪みんなでしあわせGETだね!」


と、レイナの念押しにも全く動じることなくむしろはしゃぎまわるのぞみとラブ。そんな2人を本当に大丈夫かなぁ〜?と心配するりん。ワクワクドキドキと楽しんでいるような咲、関係無いけどどんなコトになるのかなぁ〜?と悪戯っぽい笑みを浮かべているなぎさと、反応はそれぞれだった。

そんな子ども達の様子を見て、バットはこれまでの経験から、また何かやらかすのではないかと彼なりに心配していた。


「だ・・・大丈夫なんスか?ホントに・・・」
「ウ・・・ウン。気持ちは嬉しいし・・・まあ・・いざという時には・・・」
「ああ、わたし達も・・・いるからな・・しかし・・」
「やっぱり不安ね・・・」

それは、プリキュア戦士のお嬢さま方を今まで見て来た保護者の先生達の、正直な心の感想だったのだろう。

(まあ、何事もなきゃ1番いいんだけどな・・・)






「バットよ」
「今戻った」
「拳王が帰ったぞ!バット!さあ食料を差し出せいっ!」


「・・・なんだお前らか・・・どうだった?仕事は。ポカやらかしてねえだろうな?」

「きゃっ!?ラオウ!?トキ、ケンシロウ!?」
「い・・いつの間にソコに!?」


と、そんな心配を抱えるバットのもとに、さらに常々心配のタネである彼等。
北斗三兄弟がいつの間にやらバットたちの背後に存在していたのだ。
一体いつからソコに!?とレイナやベラ、サクヤは仰天して顔を引きつらせていたが、もういい加減慣れて来たバットは別段取り乱す様子もなく、彼らに今日の仕事がどうだったのかをまあまあ冷ややかに聞いてみた。

「ああ、問題は・・・・・ない!」

「問題は・・・な」

と、答えるケンシロウとトキにバットは眼を剥いた。イヤな予感がする。

「なんだ?なんなんだ!?なんなんだ今のビミョ〜〜〜・・・な間は!!なんかやらかしたのか!?なんかやったのかテメエら!?」

「ただ・・・」
「ちょっとした・・・事故・・・」

「はあ?」

「ぬははははは!バットよ!コレを見るがいい!」


「・・・・なんなんだこのフォークリフト修理費用請求書ってのは?」

「うむ・・・実は今日、レイのいるスタジオに行ってな・・・忘れ物を届けるという任務は滞りなくすませた」

「うん・・・で?それだったら仕事成功じゃねえか。そんな簡単な仕事の何を失敗したんだ?他に何した?」

「ああ、レイがお礼にと・・・」
「うむ。高級料亭「天帝庵(てんていあん)」のお弁当を取ってくれたのだが・・・」
「ラオウの弁当にしか伊勢海老が入っていなかった」

「・・・・・・・」

「ぐはははははは!当然のことよ!伊勢海老と言えば海老の覇王なればその覇王を食すは同じ覇王であるこのラオウなり!どこに不可思議があるか!?」

「ラオウ!伊勢海老は海老の覇王ならず!海老の中の救世主だ!その海老を我らに断りもなしに食そうとは、あまりな横暴!仁の拳においてあなたの暴挙は捨て置けぬ!」

「トキ兄さんの言う通り!ラオウ、キサマが握るは伊勢海老ではなく死兆星だ!」

「うぬら長兄であるこの俺に恐れ多くも意見する気かぁ!?分際を計らえぬその愚!死をもって償えいっ!」





『ならば勝負!!』




「我が剛の拳!その身に刻めい!」
「強敵(とも)!兄さんたちを超えるは強敵(とも)の魂が宿りし俺の拳だ!」
「我が有情の拳の神髄、安らかな死の中で見極めるがよい!」



「・・・・もう・・イヤ・・・コイツら・・・ううう・・・」

「な、泣かないで・・・泣かないでバットくん・・・ちょっと!ラオウも!トキさんもいい加減にして!」

簡単なお使いが3人がかりでようやく果たせたのかと思いきや、好意で用意してもらった弁当のおかずを巡って低レベルな兄弟喧嘩を繰り広げ、結果余波でお使い先の備品を壊してくる。
そして今また、悪びれもせず拳法で熾烈で下劣な争いをおっぱじめた北斗三兄弟に、バットはもう呆れることにも疲れ、ただただ人の世の限りなき悲しみが胸にこみ上げて来て涙に暮れた。
そんな彼をヨシヨシとまるでお仕置きされたあとのプリキュア戦士のお嬢さま方にするように慰めるレイナ。たまりかねてレイナもラオウたちに非難の声を上げる中、ベラが3兄弟を一喝した。


「いい加減にしないかお前たち!たかだか弁当のコトくらいでせっかくバットが与えた仕事を台無しにしてきて、それだけじゃ飽き足らずまだそんなくだらないケンカをしようというのか!?」


「む!?・・べ・・ベラか・・・」

「しかしこれは我ら三兄弟の北斗の宿命・・・部外者は口を出さないでもらいたい」

「己ベラあぁ〜、この拳王にうぬまでもが意見すると申すかぁ?身の程知らずは長生きできぬということをどうやらうぬにも教えてやらねばならぬようだなぁ〜・・」

「いい加減にしないと、社長に言って給料をカットしてもらうぞ?私達にはそれくらいの権限があるんだが・・・どうする?」


「なっ・・なっ・・なにいぃー!?きゅーりょーカットぉーーっっ!?」
「そんなっ!コレ以上カットされたら生活がっ!食料がっ!栄養があっ!・・・がっ・・がっ、がっはあっっ!?」(トキ兄さん吐血)
「こ、この拳王にもまだ涙が残っておったわあぁ〜・・・」(ラオウ号泣)

「イヤだったら、バットに言うコトがあるだろう。なんて言うんだ?ウチのプリキュアの子ども達だってできるぞ」

「う・・・む、確かに・・・」
「そうだな・・・」
「膝はつかん!我は拳王!決して地に膝はつかぁーん・・・しかし・・・」




『ゴメンねバット』




(・・・今わかった。わかってたコトだけど再確認。オレのストレスの原因は嬢ちゃん達じゃなくってコイツらだ・・・)

あらためて、自分に向かって全力で土下座している北斗三兄弟を見て、バットはそう確信した。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






翌日。




「やっぽー!vわおんちゃ〜〜んwA−GIRLSのみんなぁ〜、こんにちはぁ〜♪」

「あ!のぞみちゃ〜ん」
「おつかれー♪のぞみちゃん!」

「へぇ〜・・さっすがのぞみ・・・昨日たった1日だけであんなに仲良しになったんだ」
「うふふ、そこがのぞみさんの最大の長所だものねv」

前日に続いて、妖星シアトリカルアカデミーのレッスン場において、夢原のぞみがA−GIRLSのメンバーたちと和気藹藹と楽しそうにおしゃべりしているのを見て、リーダーのなぎさと、同じチームのほのかは流石はのぞみだと思った。
彼女達はもうアイドルとしてのソロ活動も長いため、A−GIRLSのメンバーとは何人か知り合いである。しかし、多くのプリキュア達は殆どのメンバーと初対面だったハズ。
昨日今日知り合った同業者とこれだけ仲良しなのはなによりのぞみがみんなをリードしてくれるからだ。
こういったことはのぞみでないとまず無理だ。

のぞみのおかげですっかり初対面の緊張感がとれた双方のメンバー達はユダ先生が来るまでの間、ガールズトークで楽しい一時を過ごしていた。
が、しかし、そこで突然夏木りんがなぎさに向かって助けを求めるような表情で走ってきた。

「ち、ちょっとたすけてくださいなぎささん!ほのかさん!」

「な・・なに?何よそんなにあわてて」
「どうかしたの?りんさん、落ち着いて」

「の・・のぞみが・・・ホラ、アレ・・・」




「ほらほらほらぁ〜〜vコレぇ、サキちゃんちの、「パンパカパン」のチョココロネだよぉ〜、ほっぺが落ちるくらいおいしいんだから♪でねでねえvコレはぁ〜、カオルちゃんのお店のドーナツ!PCAのみんなが大好きなんだからぁ!あとねあとね、えっとコレはキャンディーの詰め合わせでぇ、コッチはポテチとチョコとぉ・・・」



「って・・あのコっ・・バカ!なにやってんの!?」
「のっ!のぞみさん!ダメよ!」


りんに言われてのぞみの方を見た途端、彼女のやっている行為を目にしてなぎさとほのかは顔色を即座に変えてのぞみを制止しようと駆け寄った。
なんと彼女はこともあろうに、このシアトリカルアカデミーのレッスン場で、堂々と数々のおやつを広げて笑っていたのだ。
昨日のつい昨日、たった1日前、時間にしていえば24時間未満前に小さなチョコ菓子1つをレッスン室で食べたと言われてあの和音という女の子が講師であるユダという先生にキッツイ折檻を喰らったのを目の当たりにしたばかりであるにも関わらず、この天然ボケ少女はそれ以上の愚行をしでかそうとしている。
それがわかったからこそ、なぎさもほのかものぞみの暴走を全力で止めに入った。


「のぞみィー!あっ・・アンタ何してんのよ!?」
「のぞみさんダメよ!」


と、先輩2人の鬼気迫る表情を前にしてものぞみ自身は「ほえ?」となんで自分が怒られているのか全くわからないという顔で2人に振り向いた。

「なにぃ〜?なっちゃん先輩もほのか先輩もなんなのぉ?」

「あ、アンタ昨日のあのユダって先生の様子見てなかったの!?」
「このレッスン室でお菓子食べるとすごく怒られるってわからなかった?今からでも遅くないからやめなさい」

「えぇ〜?せっかくみんなと仲良くなれたっていうのにぃ〜?」

と、不満そうにそんなコトを言うのぞみ。どうやら彼女はコトの重大さが理解できていないようだ。
毎度毎度のコトだがこの子の天然ボケぶりにリーダーのなぎさは嘆息しながらゆっくりと理解できるように説明した。

「あのね、ココのレッスン場は飲み食いしたらダメなの!禁止なの!昨日の講師のユダ先生って人の様子見てわかんなかった?アンタの今のこの状況見てみなさいよ、カンッペキアウトよ?」

そう言われてのぞみは自分が今目の前に広げているお菓子の包みを見つめた。
そして自信たっぷりにニヒヒと笑って2人の前に立ち上がると胸をそらしてこう言った。

「なっちゃん先輩もほのかさんも甘い!あまいんだなぁ〜」

「・・・はあ?」

「ど・・どういうコト?甘いって何が?のぞみさん・・・」

「なぁんでココにこぉんなにたっぷりとお菓子があるんでしょーか?」

「・・・アンタが食いしん坊だからでしょ?」

「ちっがぁーう!たしかにあたしもお菓子はいっぱい食べたいけどぉ!このお菓子はマミヤ先生とか、あのユダっていう先生にもあげられるように用意したのぉ!」


「「へぇ!?」」


呆気にとられた表情でポカンと口を開けているなぎさとほのかにさらにのぞみは、エッヘンとわざとらしく咳払いして得意気に続けた。

「あたしわかったの!なんであのユダ先生ってヒトがあんなに怒ったか、それはぁ、和音ちゃんがお菓子1人で食べちゃったからなんだよきっと!ユダ先生だってお菓子食べたかったんだよ。だから和音ちゃんがズルイって思って怒ったんだよ。だからあ、みぃ〜んなが楽しく食べられるようにい〜〜っぱい用意したの!これならユダ先生も、それから元気のないマミヤ先生だってみんな嬉しい気持ちになってしあわせになれるよ!」

「そうそう!みんなで幸せGETだもんね♪」

「ラブちゃんわかってるぅvこれならみぃ〜んなハッピーだもんねぇ〜vけってぇ〜〜い♪」


「「イエイ!」」


「「・・・・・」」

目の前でそんな持論をさも正論というように語るのぞみと、それに同調して調子よくハイタッチをするラブ。
2人の行動と論理を目の当たりにして、ほのかは勿論のコト、流石のなぎさも開いた口が塞がらなかった。
果たして彼女らの論点が全く分からない。
どうズレているのか説明すらできない程にズレている。

「ね?ね?ね!?ヒドイでしょ!?さっきからずぅ〜〜っとこんな調子であたしの話も聞いてくれないんですよ!?ヒドイと思いません!?」

と泣きついてくるりんを、ヨシヨシと宥めるほのか。なぎさはそんな親友の心も露知らず、ラブと2人でお気楽に盛り上がっているのぞみに多少キツめに言った。


「ちょっといい加減にしなさいのぞみ!アンタ1番の親友のりんにこんな思いまでさせて・・・ちょっと調子に乗りすぎよ」

「ふえ?なんで怒ってんのなっちゃん先輩?見てよ、みんな楽しそうだよ」

と、厳しい顔のなぎさに全く疑問に思う事もなく答えるのぞみは、逆になぎさの手をとって、のぞみの用意したお菓子を手にガールズトークに花を咲かせているA−GIRLSのメンバーや、同じく調子に乗りやすいPCAの特定メンバー達を指さして楽しそうに話し出した。

「ホラ見て!みんな楽しそうでしょ?お菓子があれば、みんなが仲良くおしゃべりして楽しい気持ちになれるんだよ?なっちゃん先輩だってお菓子好きだからわかるでしょ?チョコレート食べたらしあわせな気持ちにならない?」

「うっ・・・それは・・まあ・・そうだけど・・・」

「なっちゃん先輩の分もちゃんとあるんだよ?ホラ!チョコレートパイ!」

「わあっ!おいしそぉ〜vv・・・じゃ遠慮なく・・・」

「なぎささん!ダメ!のぞみの言葉に乗せられちゃっ・・」

と、のぞみにこの騒ぎはダメだと言い聞かせるはずのなぎさが、ついお菓子につられて逆に言いくるめられようとしているのを見て、傍で見ていたりんが必死で止める。
食い気につられてしまう情けない相方に苦笑いをしながら、雪城ほのかが冷静にのぞみに向かってこう言い聞かせ始めた。

「のぞみさん、例え楽しい事でも、それはルールの中でバランスを取ってやってこそ意味があるのよ?昨日も教わったとおり、ココは食べたり飲んだり禁止のお部屋でしょう?いくら楽しい事だからってルールを破っちゃ楽しくなくなっちゃうわよ」

「えぇ〜〜・・でもぉ・・・」

「・・・ホラ、先生達が来て叱られないうちに、早く片付けましょう。私も手伝ってあげるから」
「ええ、わたしも手を貸すわ」
「のぞみさん、気持ちはホントに嬉しかったですよ。さあ、片付けましょう」

ほのかに静かに窘められて、のぞみも気持ちが揺らぎだす。
その様子を見て、のぞみのあまりの行動に呆気にとられていた他の、PCAの中でもとりわけまじめなメンバーでもある、チームハートキャッチのゆりやつぼみも今がチャンスとばかりにのぞみにお菓子を片付けて一刻も早くこの騒ぎを散開させようと言いよった。
ますますしょんぼりと黙り込んでしまうのぞみ。自分はただみんなを笑顔にしてあげたかっただけなのに?
みんなどうしてそんなつまんないコト言うの?
おもしろくないっ!というような表情でぷぅ〜っ・・とふくれっ面になったのぞみ。
しかし、この直後に、己の考えが甘かったというコトを思い知り、先輩たちの助言を聞いておけばよかった。と後悔することになるのだ。





「?何やらレッスン場が騒々しいですなユダさま」
「そのようねミスター・ダガール。一体フェアリーちゃん達は中で何をしてるのかしら?」


「のわああぁぁーーーーーーっっ!??」
「シエエェエーーーーーーーッッ!!??」



『!!!』

「きゃあっ!」
「なっ・・なに!?今の誰の声!?」
「びっくりしたあ・・・」

「あ・・・あ・・・」


突然レッスン場に響き渡った空を切り裂く大きな奇声。
一体何事が起ったのかと場にいたA−GIRLS、PCAのメンバー達がビックリして振り返る。
するとそこには講師兼オーナーの赤髪のオネエ系の男、ユダと彼の側近でマネージャーでもあるダガールが驚愕に顔を歪めて立っていた。
途端になぎさやほのかの顔がマズイ・・・という表情になる。
まだPCAの先生達もバットも到着していないうちに場を治めようとしたのに先にユダに見つかってしまった。昨日お菓子の件でユダ先生に散々叱られた和音などは、のぞみがくれたドーナツを床に落として半泣きで固まっていた。それはA−GIRLSのメンバー誰もが同じである。ユダはしばしあまりの光景に固まっていたが、我を取り戻すと、そのあまりの惨状に今度は怒りに顔を歪め、地獄の鬼のような笑みで女の子たちに問いただした。



「・・・一体、どぉ〜ゆ〜コトかしら?フェアリーちゃんたち?この騒ぎは?」

「ゆ・・ユダせんせ・・ぇ・・こ・・コレは・・そのぉ・・」

「どぉ〜うやらぁ・・昨日のワタシの姿を見ても、まぁだ神聖なるレッスン場で乱痴気騒ぎをやるような怖いもの知らずのおバカさんたちがいるようねぇ〜・・・昨日あれだけ散々叱ったのに・・今度は60連発でももらいたいのかしらぁ?和音ちゃん」

特上の恐ろしい笑顔でそんなコトを言われ、まだ昨日叩かれたお尻が痛い和音ちゃんはひいぃ〜っと涙目でダッシュすると響の後ろに隠れた。
彼女だけではない。ユダ先生のお仕置きを知っているA−GIRLSのメンバー達もみんな縮み上がった。
しかし、そんな時、このコが恐れることもなく、ユダの前に割って入った。

「ねえ、ダメだよ先生!そんな怖いカオしちゃ。みんな怖がっちゃうよ?」

「ん?何?アナタ!このワタシに口答えする気!?」
「きっ・・キミ!ユダ様に口答えなど・・・なんと恐れ多い事を!?」
「かまわないわミスター・ダガール・・・怖がっちゃうですって?お嬢ちゃんオモシロい事言うのねぇ、ええ怖がってもらって結構よ。怒ってるんですから。一体どういうつもりアンタたちぃ!!」

厳しいユダ先生の怒声。
彼の怖さを身に染みて知っているA−GIRLSのメンバーたちは全員その怒号に身を竦める。その覇気はプリキュアたちをも震え上がらせる迫力があったが、のぞみだけは物怖じせずさらに反論を続けた。

「ほら、ソレ。そんなに怒ってばっかりだと体に悪いよ?血圧が上がっちゃうしシワも増えちゃうってお母さん言ってた。せっかく先生キレイな顔なのにもったいないよ?」

「!?・・・キ、キレイ?アンタ・・・本気でそう思うの?」

「うん!ちょっとオネエだけどスッゴクキレイな顔!超美形だよぉvモデルさんもビックリ!」

「ふっ・・フフフ!そうでしょうそうでしょう!アンタどうやら美しいものを見る目はあるようねえ・・・その通り!ワタシはこの世で最も強く、そして美しい!」

「うんうん!美しい!そうだよねv」


美墨なぎさがそこでおや?と変化に気づいた。
先程まで鬼の形相のように顔を歪めて怒っていたあのユダという講師が、今はのぞみに向かって得意気な笑みで饒舌に自画自賛している。そしてのぞみもそんな彼をそうだそうだとうまい具合に調子に乗せ、上機嫌にさせていた。
先程までのピリついたユダの気配が欠片も残っておらず、のぞみの言葉にすっかり気を良くしてナルシズムに浸っている。

これものぞみの持つ、のぞみだけが持つ一種不思議な力の1つである。
彼女が持つ独特の人懐っこさと明るさで無邪気におだてられると、本当にその気になってしまい、自然とその時まで抱えていた不機嫌な気持ちや暗い気持ち、時には大事な要件すら忘れてしまうことがあるのだ。
ある意味恐ろしい能力である。そして、このユダという人間もまんまと彼女のその空気に取り込まれてしまった。


「な・・・なぎささん・・・なんか・・うまくいっちゃいそうな気配がするナリ・・・」
「そ・・そうね。もしかしたら・・・あのユダって先生の怒り、あのコおさめちゃうかも・・・」

と、咲となぎさも、そんな淡い期待を抱きつつ話し合っていた時、その期待を打ち砕くかのように傍らに立っていた眼帯姿の髭面のオヤジがユダにこう進言した。

「ゆっ・・ユダさま!先程からこの娘めに乗せられております!お気を確かにっ!ユダさま!」

「・・・ハッ!そっ・・そうよ!話を逸らそうったってそうはいかないわよっ!アンタねえ?こんな大それたマネをしたのは!」

「ああ!ヤバイナリぃ!気づかれちゃったナリ!」
「あんの横のヒゲオヤジ!余計なコトしてくれちゃってぇ〜〜っ」


あとちょっとだったのに!と悔しがる咲となぎさ。
彼女達と同じような期待をしていたPCAの他のメンバー達も悔しそうに髭ヅラのオヤジを睨み付けると同時に再びヤバイ・・と顔を引きつらせた。
その通り、のぞみを再度鬼の形相で見据えるユダ。
さらに彼女に圧力をかけるようにユダはこんなコトを言った。


「クックック・・・残念ねぇ〜・・まさかレッスン初日にして・・新しいフェアリーちゃんに我が南斗紅尻拳を味わってもらわなきゃならなくなるなんてねえ・・・」

そう言われて今日はじめてのぞみの顔が強張った。
のぞみは、はじめて自分のやったことがもしかして逆効果だったのか?と思い、恐る恐る怖いカオをしているそのユダ先生にこう聞いてみた。

「ど・・・どうして怒ってるの?ちゃ・・ちゃんとユダ先生の分のお菓子も用意してあるんだよ?ちゃんとおなかいっぱいになれるんだよ?」
「おだまり!なにがおなかいっぱいよ!?今はオヤツの時間でもないってのに・・・覚悟おし!南斗!こうけつけっ・・・」
「ひっ・・・ひいっ」



「まってっ!!」



まさに激昂したユダがのぞみに掴みかかろうとし、夏木りんをはじめとするPCAの面々が、ウチののぞみちゃんがあの恐ろしい折檻の餌食にされる!と思い、「のぞみぃーーっ!」と悲痛な悲鳴を上げたその時だった。
突然入口から響き渡った凛とした声。

メンバーにとってとてもなじみ深い声。




「!?・・・・・なぁにぃ?またアンタなの?またなの!?ワタシのジャマをしてぇ〜〜・・・」
「・・・!!・・・ふ・・え・・・ま・・マミヤせんせえぇ〜・・・」




入り口には、マミヤ先生が立っていた。
その後ろには、バットさんと、他の教育係の先生達、レイナ、ベラ、サクヤもいる。
プリキュアメンバー達は皆、先生達の顔を見て、とても安心したような顔を見せた。怒ったらユダに負けず劣らず怖い先生達だが、やっぱり彼女達にはとっても頼れる保護者なのである。
マミヤは強い表情でユダを見据えると、はっきりとした口調でこう言った。


「ユダ・・・いえ、ユダ先生。お願いします。その娘のコトどうか許してあげてください。責任は私がとりますから」

そう言って深々と頭を下げるマミヤ。
その様子に驚いたのはPCAのメンバー達よりもむしろ同僚のレイナやベラ達だった。
筋の通らないことが大嫌いなマミヤ。
のぞみに非があるとは言え、ここまで詳しいいきさつも聞かないまま一方的に頭を下げて謝罪する姿など今まで見たことがなかった。
それはユダも思ったようで、一瞬驚いたような表情をしたが、直後にニヤ〜と嫌らしい笑みを浮かべると見下したように言った。

「ホッホッホ!アンタがワタシにこうも簡単に頭を垂れるなんて・・・そんなにこのコ達が大事なのかしら?」

「・・・・お願い・・・します・・・」

「ふえっ・・マ・・ミヤ先生・・・」

「さぁて。どうしようかしらねぇ〜・・・アンタに頼まれてもねぇ〜・・」
(クククッ!これはチャンスだわ!あの時の恨み・・・今こそ晴らしてやらいでか!!)

「じゃ・あ!土下座してワタシのこの足にキスしなさいな!忠誠を誓いなさい!一生ワタシの奴隷になって言われるがままあらゆることに従うと!そうすれば許してアゲルvおーっほっほっほっほ!」

そう勝ち誇ったように言って高笑いしながらマミヤを見下ろすユダ。
そんな態度にドン引きしたのはまだ彼の性格をよく知らないPCA21の子ども達だった。
土下座?足にキス!?そんなのパパママ世代の昔のドラマが再放送してる時に、なんかよくわからないケバイ女支配者が出て来た時に奴隷に向けてやってたのをチラっと見たことある程度で現実にこんな事を要求する人なんていたのか?
理解に窮するプリキュア戦士のお嬢さま方だったが、現に目の前でそんな光景が展開されている。

あの和音ちゃんをお菓子をレッスン場で食べたというだけであんなキッツイ折檻を喰らわせた姿を見た時から薄々は感じていたが、この先生はヤバい。ヤバいヒトだ。
そんなことに今になって気づいた。



「なによアレ!」
「イヤなカンジ〜・・ホントにいるんだああいうヒト」
「足にキスってナニ?キモチワルイ!マジキモ!意味わかんないっ」
「オネエ系なところがアヤシイと思ってたケド・・ガチでヘンタイだったんじゃん!」



小声で口々にそう言うプリキュア戦士のお嬢さま方。
もちろん、なんてことを!というような思いはバットやレイナ、ベラやサクヤも同じでいくらなんでも酷すぎる!と怒りを湛えた目でユダを睨み付けている。ユダの性格をある程度知っているA−GIRLSの女の子たちすら、ユダのそのあまりの傲慢で理不尽な要求に思い切り嫌悪感を顔に表している。満足気に笑っているのはユダと、彼の参謀のような傍らにいるダガールと呼ばれた髭のオッサンだけである。
しかし、そんなみんなの思いとは裏腹に、マミヤは唇を噛み締めて一瞬固く目を瞑ると、何かを決意したようにユダを正面から見据えて言い放った。

それは、プリキュアやA−GIRLS、そしてバットたち保護者勢までをも仰天させるあり得ない答えだった。




「それでアナタがこのコを許してくれるなら・・・」

『!!』
『ええぇっ!?』

「ちょっ・・・ウソ!?」
「まっ・・・マミヤせんせえっ!?」
「何言ってるんですか!?」
「そんなコトっ・・・」
「やっ・・・やめて!やめてくださいっ!」


なんとマミヤはユダの要求を飲み、そして自ら彼の足首に口をあてがおうとしたのだ。
頼りにしていたマミヤ先生、どんなコトにも、とりわけ理不尽なことには一切応じない性格のマミヤ先生のまさかの行為にPCAの女の子たちからは悲痛な悲鳴が次々に上がる。

「だっ・・・ダメ!ダメだよう先生っ!そんなのおかしいよっ!」
「・・・・・。」
「なんとか言ってよねえっ!先生!せんせえってばあっ!」

いつもはお気楽なのぞみもマミヤのこの姿を見て流石に事態の深刻さに気付いたのだろう。
能天気ないつもの笑顔はどこへやら?悲痛な顔でマミヤ先生の服をグイグイと引っ張ってとどめようとした。しかしマミヤはのぞみや他の子ども達の声などまるで聞こえていないかのようにゆっくりと覚悟を決めたようにユダの足へと顔を近づける。


「まっ・・・マミヤさん!それは・・・やりすぎじゃあ・・・」
「そっ・・そうです先輩!そんなコトやめてくださいっ!」
「いくらなんでもやりすぎだぞ!」


バットやレイナたちも必死に止めるが聞こうとしないマミヤ。
ユダだけが恍惚とした顔で虚空を見つめ悦に浸っていた。



(嗚呼、なんてイイ気持ちなのかしら?ワタシの美しさと強さにすべての女が屈服するのは!そうよ!この世の女なんて所詮はワタシの僕!道具!奴隷!こうして屈服させることこそが至上存在意義!しかもその相手が今日はあのマミヤだなんて・・・ウッフッフ・・・コレであの人もワタシに振り向いて・・・)


ユダの妄想が最頂点に達しようとした時だった。






                       バ ン  ! !






大きな音とともにレッスン場の扉が開かれた。






「ユダ!それまでだ。マミヤから離れてもらおうか!」


「あ!!」
「え!?」
「ウソ!?」
「なんでこんなトコに!?」




「け・・・ケン先生!?それに・・・っ」




「・・・・レイ・・・どうしてアナタがココに!?」

「れっ・・・れっ・・レイぃーーーーっっっ!!?」




そこには、なんと今日は1日モデルの仕事で缶詰めのハズの塩沢麗の姿があった。
そして彼の後ろにはそのアシスタントとしてバイトに駆り出されたハズの北斗3兄弟までもが堂々と立っている。
彼らの姿を見てバットたちより、PCAのメンバー達より、そして恋人の姿に目を見開いたマミヤよりも、絶叫を上げて驚愕したのはユダだった。



「ユダ・・・相変わらずそんなマネをしているとはな・・・」

「ふ・・フン!何よ!今さら何しに来たっていうの?」

「マミヤから離れるんだユダ!マミヤ!お前もそんなコトしてはならん!」

「れ・・レイ・・コレはその・・・そっ・・そんなことより、どうして?今日ココでレッスンがあることはアナタには伝えてないハズなのに・・・どうしてココに!?」

「そこの桃色の髪のお嬢さんがメールにて教えてくれた。マミヤ先生の様子がおかしいと、レイさん助けて欲しい、と・・・」

「え?・・・の・・のぞみ!?アナタが?」
「う・・・うん・・・」

「・・・どうして?」
「だって・・・きのうから、マミヤ先生なんかツラそうにしてたんだもん。みんなに気づかれないようにしてたけど、あたしわかっちゃったんだもん」

マミヤはのぞみのその言葉を聞いて自らの未熟さを悔いた。
自分では億尾にも出していなかったつもりの、ユダと出会ってからの気持ちの混濁。それを一番気づかれまいと注意していた生徒に気づかせてしまった。
のぞみは純粋無垢ゆえ、直観力も他のプリキュア達と比べて鋭い。これも彼女が持つ特別優れている能力の1つだろう。そののぞみだから気づかれてしまったと言ってしまえばそれまでだが、自分では一切表に出していなかったつもりの感情がついつい滲み出てしまった結果、とマミヤは思っていた。




「レイ・・・あの・・・これは・・・」

「マミヤ・・・オレをいつでも頼るようにと言っているだろう?オレはお前のためならばどんなことでもする覚悟なんだ」

「おお!なんと素晴らしき覚悟。流石は義の星の名の下生まれ出でた男だ。ではその義の星の覚悟でこのトキにもお恵みを・・・このまえ奢ってくれたあのカルビ丼、また奢ってくれぬか?あの後スタミナついてしばらく体調子よかったのにまた持病が再発して・・・栄養取れば・・・ゴホッゴホッ」
「ぐわっははははは!その意気やよし!レイよ!その覚悟この拳王も大いに買った!うぬのその命と力、このラオウの覇道に捧げいっ!」


「オメーらはだぁってろ!ま・・マミヤさん・・・その・・・色々お気持ちもあるでしょうけど、オレ達も・・・それにこのコ達だって今一つ状況つかめてねえし・・・のぞみちゃんが今回こんな騒ぎ起こしちまったのだって、マミヤさんの様子を心配してだったじゃないスか。聞かせてくれませんか?その・・・マミヤさんと、そのユダさんって人の間に何があったのか・・・」



と、どさくさに紛れてレイに身勝手な注文をつけようとしていたトキとラオウの2人を叱り飛ばし、バットは視線をマミヤの方へと移して、彼女にこの一連の騒動の核心、マミヤとユダとの関係、この2人に過去いかなる因縁があったのか?正直に問い尋ねた。
いつも人に対して物凄く気配りのできるバットのストレートな質問を受けて、流石のマミヤもフウ・・・と一息つくと、観念したような面持ちをして、言葉を紡ぎ出した。



「・・・わかったわ。話すわ。実はね・・・ソコのユダさんとわたしは・・・」
「アラ、何よマミヤ。アンタまだ言ってなかったの?ワタシとアンタ、それにレイとのあの因縁の出来事を・・・!」

しかしそこで話し出したマミヤの言葉をユダが遮った。
その顔は静かに笑みを宿しており、あの子ども達を叱った時よりも数段不気味な凄味を感じた。ユダはマミヤを冷たい笑顔のまま睨み付けると、バットたちに向かっておもむろに近づき、そして胸を反らせ、さらには入り口の方へ現れたレイにビシっと指を突き付けて語りだした。


「いいわ。ワタシから離してアゲル。ワタシとこの女・・・そして・・・レイとの間に何があったのかを!」

「ゆ・・・ユダっ・・それは・・・」
「お黙り!さあ!よくお聞きアンタたち!この女が!ワタシとレイにどんな仕打ちをしたのか!!」





「今からそう・・・もう10年前・・・ワタシはまだ南斗紅鶴拳(なんとこうかくけん)の伝承者になったばかりだったわ・・・その日は南斗六星拳の新伝承者が一堂に会して技を比べ合うお披露目の日だった・・・その日、ワタシは会場に急いでいた・・・」






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ユダさん回想〜〜以下語りユダ〜〜〜〜〜〜







「ああっ!いけないっ!ワタシったら、遅れちゃうわ・・・こんな日に限ってメイクが決まらないんだから・・・それに・・・今日はあの人も、愛しのあの人も来るはず・・//////


息を切らせながらワタシは急いでいた。
せっかくのお披露目会に遅刻しては美しいワタシや我が美技、南斗紅鶴拳の名が軽んじられてしまうかも?
何より、愛しのあの人にそんな醜態を晒したくない・・・!
その想いでいっぱいだった。そして、ワタシは遅れる事無くそのお披露目会の会場、南斗大聖殿(なんとだいせいでん)へと到着した。



嗚呼、ようやくあの人に逢うことがことができる。あの人に・・・ワタシの胸は高鳴ったわ・・・なのに・・・なのに・・・!!

ワタシは見てしまった!!





「・・・・レイ〜・・レイ!おかしいわね・・・もうとっくに着いてるハズなのに・・・どこにいるのかしら?レイ〜・・レ・・・!!??」



ワタシは目を疑った・・・






ワタシの・・・ワタシの愛しいあの人が・・・っっ!





「もう、レイったら。ホラ、コレあなたの財布でしょう?貴重品はちゃんと身につけておかなきゃダメじゃないの」

「ああ、スマンなマミヤ・・・いつも助かっている」

「そんな大げさな・・・さっきお茶飲んだ喫茶店に置き去りにしてあっただけでしょ?でも、そんなコトしてるといつか盗まれるわよ?これからはホントに気を付けてちょうだい」

「うむ。ところでマミヤ、この後時間はあるか?財布を届けてくれた礼もしたいし、どうだ?食事でも」
「もうレイ!今は仕事中よ?私もこの後学園で残務があるし・・・その話は仕事の後ね」
「わかった。では仕事の後、職場へ迎えに行こう。待っていろ」
「ちょっ・・・そんなっ・・急に・・・もう/////






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ユダさん回想終了〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「ぐっ・・・ググググググ・・・・ギギギギィィ〜〜〜〜いぃ・・・っっ」


千切れんばかりに取り出したハンカチを噛み締めて正に悪魔の如き表情で悔しがるユダに、マミヤは真っ赤に染めた顔を両手で覆い、レイや北斗三兄弟は無表情。
そして、バットやレイナたち、そしてA−GIRLSの女の子たちやプリキュアメンバーたちは・・・

もう思いっきりこのユダの話にドン引きしていた。




「近づいて話すあの顔!アナタの笑顔に顔を赤らめるこの女のあの時の声!表情!こっ・・・この女は・・・このオンナは!!こともあろうにこのワタシの愛しの人を!レイを!!白昼堂々と寝取ったのよ!」

「ねっ・・寝取ってなんかいないわ!それにあの時ただレイと他愛ない話をしていただけじゃない!レイからアナタのコトなんて聞いたことなかったし・・・」
「お黙り!!食事がどうこうのどこが他愛ない話なのよ!カンペキにデートの話じゃない!おぉ〜のれぇ〜〜・・・ワタシは絶対に許さない!レイを奪い取ったアンタを・・絶対に!」






(うわああぁーーーーーッッッ!!こっ・・・このヒトやっぱりマジモンのド変態だったあぁあーーーっっ!!)






と、バットがまたしても心中で激しく突っ込む。
オネエ口調ときわどい立ち振る舞いからもしやとは思っていたが、思っていた以上のヤバイ人だった。
本物の男色家が自分達が担当するアイドル達の振り付けの先生!?
振付師にはオネエ系の先生が多いとは聞いていたが、ここまで女性個人に対して一方的な恋愛の恨みをぶつける変態など見たことも聞いたこともない。
バットは目の前のユダという人間に本格的に怖気を振った。

「・・・ユダ・・・少しいいか?」

「何よ!ワタシを裏切ったヒドイ男のクセに!!」

と、間を割って話に参加してきた当の愛しの男、レイに向かって、ユダは聞く耳ももたず辛辣に撥ね付ける。
しかし、その返答にとくに困るわけでもなく、ただ、ただただ純粋にレイは彼にこう投げかけた。




「・・・・いや・・・マミヤが俺をお前から奪ったとは・・・一体全体何の話をしているのだ?」

その質問にユダが凍りついた。
いや、ユダだけではない。話題の渦中だというのに全く気に留める様子もなくあっけらかんとこんなコトを言うレイさんにA−GIRLS、PCAのメンバー達の空気も一瞬にして凍結した。
みんな「あ・・・言っちゃったよ・・・」といかにも言いたげな引きつった顔でレイさんを見ている。
もっとショックだったのはユダだ。
今の一言にこの世の終わりを見た!というような何とも言えない衝撃を顔全体に張り巡らせて口をあんぐり開けており、さながら放心の体である。
それも一瞬の事、頭を強く振ると、レイに指を突き付けながら今度は真っ赤に怒って言った。



「あ・・・あ・・・あ・・っアンタ!そ・・それホンキで言ってんの!?あ・・あんなっ!ワタシにあんな思いをさせておいてッッ!!それでもカンケーないって言うの!?」

「あんな?はて?どんな思いだ?」

全く記憶にございません然り、そんなレイの態度に顔を真っ赤に紅潮させてピキピキと血管を額に浮き上がらせながらもユダは何とか平静を装うと、自分を落ち着かせるように一言一言声を漏らした。

「・・・ど・・どうやら本当に忘れてるようね・・・失礼だけど、仕方ない!教えてあげるわ!思い出させて上げる!アナタがっアナタがワタシにあの日したことをっ!」

(ええぇぇ〜〜〜??・・・なになに?なんなんだよ?まだ何かあんのかこの2人?ってかレイさんとコイツの間になにがあったってんだよぉ?もういい加減にしてくれよぉ・・・)


というバットの切なる心の願いを知る由もなく、ユダは再び思い出話を語りだしていた。







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ユダさん再び回想 以下 語りユダ






あの日はそう、はじめてアナタに会った日。
ワタシはまだ南斗紅鶴拳の一拳士にすぎなかった若きローティーンだった頃、南斗聖拳の門徒が集まって演武を行う日があったわ。
ワタシは他の南斗聖拳の門徒達を見下していた。
どいつもこいつも技のキレ、鋭さ、そして殺傷力。取るにも足らない醜い雑魚ばかり。
レベルの低さに失望してワタシは誰か1人を血祭りにあげて早々に立ち去ろうと思った。

そんな時だったわ。
アナタを見たのは・・・




「おお、素晴らしい!あの華麗な舞!」
「あれが噂に名高い南斗水鳥拳か。しかし素晴らしい使い手だなアレは誰だ?」
「ロフウさまの弟子のレイという男だそうだ。いやいや、見事だ!」


「ひゅぅ〜〜・・・ヒョウ!シャオォ!」


「・・・・・・!!!」




アナタの演武を見た時、ワタシの体に電撃が走った。
一瞬にして巨大な石像を真っ二つに裂いたその技のキレ、鋭さ!その全てが美しかった!
今まで自分以外のものを美しいと感じたことのなかったワタシにとって、それは何にも勝る衝撃だったわ・・・。
ワタシはアナタの舞に、アナタの姿に目を、心を奪われた・・・。そして演武を終えたアナタは、立ち尽くすワタシにこう言い放った。



「お前も南斗の拳士か?俺と同じだな。オレはレイ。塩沢麗という。お前は?」

「あ・・・し・・島田・・遊蛇(しまだゆだ)。」

「ユダか、ヨロシクな」

「あ・・・あ・・・////////嗚呼/////////







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜回想終わり。〜〜〜






「その時・・・その時!!ワタシは一瞬にして恋に落ちたのぉおぉおーーーーーっっ!!まさかそれも覚えてないってワケ!?」

「いや・・・確かにそんなコトが会ったことは辛うじて記憶にあるが・・・そこでなぜオマエがオレに恋に落ちねばならんのだ?」

「アンタほんっっとぉ〜〜にバカね!今まで他人を美しいと思ったことのない私がはじめてアナタのコトを美しいと思ったのよ!?コレが恋じゃなくってなんだっていうの!?」



という、若く甘酸っぱいユダ先生の恋バナの告白を聞いて、PCAメンバーやA−GIRLSのメンバー達は感動・・・!




するワケもなく。






ユダ先生のその話にさらにドン引きして、顔を青くして引きつらせていた。




(うわああぁあーーーーーーっっ!!カンゼン勘違いいぃーーーっっ!!そして執念深い!)

例によって例の如くバットが心の中で激しい突っ込みの叫びを上げる。
そう思ったのは彼だけではないようで、保護者集団のレイナ、サクヤ、ベラもユダに対して完全に引きつった表情をしている。
そんなコトも露知らず、当のユダ本人は続けた。




「あれ以来、ワタシの生活は変わってしまった!モデルをやっているという情報を聞いてテレビでアナタの姿を追うようになってしまった!生活の中のあらゆる場面でアナタに心を奪われてしまった!!・・・ヘアワックスのCMでアナタが映っているのを目にすれば・・・」






{10秒で即!固まる!決まる!男になれる!ヘアワックスは、サウス・ザ・スターズ!お求めはコンビニ、薬局で。南斗製薬(なんとせいやく)!}




「髪の毛固めても・・・・うっ・・うっ・・美しいいぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ」





「牛丼屋のCM見ても!!」






{うまい・・・うまい・・・!ひたすらっ!美味い!!国産牛肉100パーセント使用!甘辛く煮込んだ玉葱とホロホロ牛バラが最高のコラボレーション!今なら1,5倍、ギュギュっと増量!牙屋(きばや)の牛丼!}




「ぎゅっ・・ぎゅっ・・ぎゅうどんたべても・・・・美しいーーーーーーっっっっ!!!」
(嗚呼っ!この気持ちは一体何?この高鳴る胸は、この興奮に満ちた高揚感は!?これが・・・コレが・・・恋!?)






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜回想終了!






「あの時ワタシは・・・アナタの美しさを認めるとともにアナタの全てに・・そう!唯一この世でワタシより美しいと思えた男に心を捧げると決めたわ。例えそれが禁断の愛であろうとも!・・・・そのワタシを・・・ワタシを差し置いて・・・くぅおのマミヤみたいな女にいぃーーーー!?許せるもんですかぁーーっ!絶対認めないったら認めない!!」

(うわあぁ〜・・・スンゴイ、ドロドロしてる・・・もう勘違いから暴走しまくってるよこのヒト・・・ヤバイ。ヘンタイの上にマジキチだ・・・)

そんな最もな感想を心の中で吐露したバットは、この危ないオジサンに極力子ども達を近づかせまいと体を開いてプリキュアメンバー達をそれとなく遠ざけた。
鋭いメンバーの子ども達はバットさんのそんな気遣いがわかったのだろう。物事を察して先生達の後ろへと身を引き、レイさんとユダ先生との間に距離をとった。
みんながそんな危機感を感じていることなど最早アウトオブ眼中だったユダ先生、周りのことになど目もくれず、ただただレイを真っ直ぐに見据え、レイの傍らでただただ頭を抱えて項垂れているマミヤを指さしながら叫んだ。


「レイ!アナタこれでも!これでもワタシよりこの女を選ぶの!?ワタシの純情を踏みにじってまでもっっ!」

「いや・・・お前の純情は知らんが・・・お前とマミヤどちらか取れと言われれば間違いなくマミヤを取るぞ。だってお前は男だろうが」

「ケエエェーーーーーっっ!!裏切り者オォーーーっ!!そうかぁ・・・そうまで言うってぇなら俺も腹ぁ括るぜなぁ、レイ!ならばこの場でお前を殺して俺の愛を永遠のものにしてくれるぅああぁーーーっっ喰らえっ!南斗紅鶴拳んーーーっっ!!」



(ええぇぇーーーーーっっ!!??いきなりキレて襲い掛かったアァーーーッッ!!しかも口調いつの間にか野郎口調に変わってるしぃ〜〜〜っっ!)



「きゃあぁあ〜〜〜〜っっレイさん!!」

「あっ・・・危ない〜〜〜っっ」

「ゆっ・・・ユダ!やめて!子ども達も見ている前でこんなコトっっ」

「マミヤ!下がっていろ。もはやこの男は止められん。そう、拳にてこの男を制するしか道は無し!南斗紅鶴拳伝承者、島田遊蛇!相手してやる!南斗水鳥拳!」


そんなマミヤの必死の制止の声も届くことなく、目にも止まらぬスピードでユダとレイが交錯しようとした、まさにそんな時だった。







「は〜〜い。そこまでよぉ〜っ!みんなコッチに注目ぅーっ!」


『!!!』


その場を制止したその声はA−GIRLSのメンバー達でもプリキュアのメンバー達でもない。
入り口から突如として聞こえたもう1つの女性の声だった。
ユダとレイまでもがその声に反応して動きを急に止めたのは、その声が今まで聞かなかった全く別の人物の声だったからだろう。
入り口にはいつ入って来たのだろうか?
ブルーの髪が眩い妖艶な感じのする女性が不遜な態度で堂々と立っていた。
全員の眼がその女性に注目する中、当の彼女は長いパーマのかかった髪を手で流しながらフフン♪と自慢気に笑った。その様子にプリキュアメンバー達のリーダーであるなぎさが恐る恐る尋ねた。


「・・・え・・・えっとぉ・・・あの、ど・・どちらさまでしょうか?」

「よっくぞ聞いてくれたわねぇお嬢ちゃん!アナタがプリキュアちゃんのリーダーねぇ?ワタクシ、ワルサーシヨッカーのウザイナー部門、幹部の水下嶺。コードネーム、ミズ・シタターレ!vサラマンダー社長に反旗を翻すアンタたちプリキュアの小娘ちゃんたちをお仕置きしにやってきたのよvヨロシク♪」

「わ、ワルサーシヨッカーの・・・!?」

「ハナミズターレ!?」

「ミズ・シタターレよ!いい度胸してんじゃないのこんのクソガキども!どうやらのっけから痛い目にあいたいようだねえ〜・・・」


と、美翔舞に続いて即座に相手の名前を名指しした咲。そのトンチンカンな天然間違いっぷりに同じメンバー達は笑ったりずっこけたりし、保護者の連中は項垂れ、当のミズ・シタターレさんは顔を真っ赤にして怒った。

(鼻水垂れって・・・咲ちゃん随分とダイナミックな間違え方したな・・・)

バットがそんなコトを考えている間にミズシタターレはなんとか平静を取り戻すと、失いかけた威厳をかき集めてフンッ!と胸を反らすと、ニヤリと笑みを浮かべてこう言い放った。

「まあいいわ。そのオフザケも今日で最後にしてアゲル。さあ、来なさい!ウザイナー!」

ミズシタターレがそう叫ぶと、突然、辺りの空気が淀み、昼だというのに景色が薄暗くなる。
そして虚空に妖気が集中すると、やがてその妖気が巨大な人のような型を形作り、その中から黄土緑色の魔物が姿を現した。


「ウザイナぁ〜〜〜っっ!」



『きゃああぁぁ〜〜〜〜〜〜っっっ!!』
「なになになにぃ〜〜っっ!?」
「このデッカイ化け物ぉ!?」


妖星シアトリカルアカデミーのレッスン場にA−GIRLSのメンバー達の悲鳴が響き渡る。
ウザイナーはそのままレッスンの為に使うCDプレイヤーに憑依し、それがあっという間に化け物の形を形成した。
突然の出来事に、周りにいたA−GIRLSのメンバー達は悲鳴を上げてパニックに陥っている。
すぐさま、レイナやベラといったPCAの保護者の先生達が、騒ぐA−GIRLSの女の子たちを「落ち着いて」「大丈夫だから」となだめにかかっている。
こうなってしまってはもう仕方がない。

先程まで人形やペットに扮していた妖精たちもこの事態に立ち上がり、プリキュア達のもとへと駆け寄っている。




「なぎさ!一大事だメポ!」
「わかってるわよメップル・・ったく、こんなところにまで現れてくれちゃって・・・仕方ないわね。みんな!変身よ!」

『はい!!』


と、リーダーの美墨なぎさの言葉にメンバーの全員が反応する。
そして、妖精が変身アイテムを出したり、変身アイテムになったり・・・
いつも通りのお約束の展開。
すっかり変身と言う単語の意味を理解してしまったバットは、嗚呼。ココでもまた馬鹿な悪の組織にウチの可愛い子ども達が毒されていくんだと慣れてしまった絶望に額に手を当てていかにも沈痛そうな面持ちをしていた。

(こんな事に慣れちまったオレって・・・オレの人生って・・・)






「「デュアルオーロラウェーイブ!」」
「ルミナス!シャイニングストリーム!」

「「デュアルスピリチュアルパワー!」」

『プリキュア・メタモルフォーゼ!』
「スカイローズ・トランスレイト!」

『チェインジプリキュア・ビートアーップ!』

『プリキュア・オープンマイハート!』

『レッツプレイ・プリキュアモジュレーション!』



そう各々の子ども達が叫ぶと、彼女達の姿が眩いカラフルな色の閃光に包まれ、光の中から登場した時には、その体にいつものコスチュームを身に纏っていた。




「光の使者!キュアブラック!」
「光の使者!キュアホワイト!」
「かがやくいのち!シャイニールミナス!」

「輝く金の花、キュアブルーム!」
「きらめく銀の翼、キュアイーグレット!」

「大いなる希望の力、キュアドリーム!」
「情熱の赤い炎、キュアルージュ!」
「はじけるレモンの香り、キュアレモネード!」
「安らぎの緑の大地、キュアミント!」
「知性の青き泉、キュアアクア!」
「蒼い薔薇はヒミツのしるし、ミルキィローズ!」

「ピンクのハートは愛あるしるし、もぎたてフレッシュ!キュアピーチ!」
「ブルーのハートは希望のしるし、摘みたてフレッシュ!キュアベリー!」
「イエローハートは祈りのしるし、とれたてフレッシュ!キュアパイン!」
「真っ赤なハートは幸せのあかし、うれたてフレッシュ!キュアパッション!」

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!」
「海風にゆれる一輪の花、キュアマリン!」
「陽の光浴びる一輪の花、キュアサンシャイン!」
「月光に冴える一輪の花、キュアムーンライト!」

「爪弾くは荒ぶる調べ、キュアメロディ!」
「爪弾くはたおやかな調べ、キュアリズム!」
「爪弾くは魂の調べ、キュアビート!」
「爪弾くは女神の調べ、キュアミューズ!」



『プリキュア・オールスターズ・21!ただいま参上!あなたの好きには、させないっ!』

「なっがいのよ!このおバカども!どれだけ人待たせてんの!?もっと年上の人を敬うことを覚えなさいな!ウザイナー!やっておやり!」
(た・・・確かに今の尺は長い・・・しかし悪党の皆さんも悪い人たちのハズなのによく待ってくれてんないつも・・・)


そこは礼儀正しいのだろうか?
と、ミズシタターレさんの怒りの言葉に共感を覚えつつもややどうでもいいことを考えていたバットだが、化け物たちが今まさにプリキュアメンバー達に襲い掛かろうと体勢をたてているのを見ると、自分はA−GIRLSの女の子たちに巻き添えがいかない様に動くため、彼女達の方へと駆け寄った。
その肝心のA−GIRLSのメンバーだが、突然の化け物の襲来に最初は驚き怯えていた子も多かったが、プリキュアメンバー達が変身を遂げると、「スゴーイ!PCA21の生アクションショーだぁーっ!」「いつもの恒例のゲリラショーね!?はじめて生で見たぁ〜〜っワクワクぅ〜〜v」と、この戦いをすっかりショーと思い込んで楽しそうに見物していた。
考えてみればいつどこで襲ってくるかわからないワルサーシヨッカー。その手先たちと繰り広げられるイレギュラーなこのバトルは傍から見れば非現実的なトンデモ事態であるので、このゲリラショーという理解はカムフラージュには一番しっくりと来るのかもしれない。
レッスン場が広い事が幸いした。バットたちが危険が無いようにと、A−GIRLSのメンバー達を奥へと非難させた直後に、ウザイナーの攻撃が始まった。
プリキュアメンバー達が散開する。


「ウザイィナァーーーッッ!」


「はあっ!」

「っだあっ!」
「はっ!」

突っ込んできたラジカセウザイナーをまずはリーダー格のなぎさ、ほのか、ゆりが迎え撃つ。
突進ざま繰り出されたコンセントプラグに扮した右腕の大振りパウンドパンチを、ほのかが得意の合気術で受け流し、そのまま床に放り投げる。
ソコになぎさが振りかぶったハンマーブローをウザイナーの顔面付近に叩き付け、ほぼ同時にゆりが両足でストンピングを繰り出す。
リーダーたちの先制攻撃で勢いに乗ったプリキュアチーム。
続いて咲と舞が精霊の魔法力を込めた合体掌底を起き上がりに打ち込む。

「ぃやあっ!」
「ええいっ!」

「ウッ・・ザイっ!・・・ナァーーーッ!」

チームスプラッシュスターの2人の攻撃は。パアンッ!という大きな破裂音とともにウザイナーの巨体を弾き飛ばした。
その直線上に待ち構えていたのは今度はチームフレッシュの面々だ。
高く飛び上がると、飛んでくるウザイナーに向かって得意の4プラトンを叩き込む。

『プリキュア・グアトラプルキィーック!!』

「ウザイッナッ!」

目も覚めるようなプリキュアチームの連携攻撃に完全に迎え撃たれたウザイナーはそのままもんどりうって地面に倒れ伏した。

「やったあっ!」
「きゃぁ〜〜っっ!プリキュアカッコイイーーっvv」
「アタシこのシーン写メってカレシに送ろっとv」

プリキュア達の活躍にすっかりこの戦いをアクションショーだと勘違いしてるA−GIRLSのメンバー達は各々勝手なことを言いながら、全く緊張感のない様子で事の次第を見物していた。
しかし、そんなプリキュア優勢の戦局を見ていたシタターレが、情けないウザイナーに喝を入れる。


「ちょっとしっかりおしよ!ウザイナー!あんな小娘どもにいいようにあしらわれて恥ずかしくないのかい?さあとっとと立ちな!そして反撃だよ!」

その言葉を聞くと、ウザイナーはビュン!と飛び起き、再びプリキュア戦士の前にズズンと立ち塞がった。
どうやらまだやる気はマンマンのようである。
しかし反撃がありそうだなと警戒したのは傍で見ていたバットやレイナ、ベラやサクヤ。そしてレイの背後で様子を観察していたマミヤといった保護者の連中だけで、当のプリキュア達は先制攻撃がうまくいったことにすっかり油断をして、ウザイナーが反撃体勢をとったことに気づくのが遅れてしまった。


「ウザイナーーッ!」


「!!・・・うっっ・・ああっ」
「きゃあっっ・・・」
「あうっ・・・」
「きゃうっ!」
「やあんっ!!」
「いやっっ!」


一瞬の隙を突いて、ウザイナーがコンセントプラグと化していた右腕からコードを伸ばし、それをプリキュアメンバー達に巻き付けて来たのだ。
反応の速かったなぎさや、いち早くウザイナーの様子を見て取って警戒していたほのかやゆり以外のチームスプラッシュスターやフレッシュの面々はあっという間に拘束されてしまい、そのコードでギリギリと締め上げられてしまった。


「お〜〜っほっほっほっほ!いいザマじゃないこと!さあ、ウザイナー!そのまま締め上げてたっぷりお仕置きしてもう2度とアタシらに逆らおうなんて気が起きないようにしてあげなさい!」
「ウザイナァ〜〜!」


「ちっ・・ちょっとっ!離しなさいよっ!こんなカッコ・・・全然カンペキじゃないじゃないっ!」

「うっ・・・動けないナリぃ〜〜っっ・・」



「っもう!油断するから・・・」

「大丈夫だよマミヤ先生!あたしたちが今、みんな助けるからっ!いくよっ!チームファイブゴーゴー!」
『YES!』



と、生徒たちの失態を怒り、呆れながらも自ら助けに行こうとしたマミヤに、すっかりキュアドリームとしてチーム5GOGOのリーダーになり変わったのぞみが力強く言った。
いつもおちゃらけでのほほんなのぞみちゃんが凛々しく見える数少ない場面である。
のぞみの号令とともに、メンバー達がそれぞれ別々の角度からウザイナーに飛び掛かる。

「プリキュア・ファイヤーストライク!」
「プリキュア・プリズムチェーン!」
「プリキュア・エメラルドソーサー!」
「プリキュア・サファイアアロー!」
「ミルキィローズ・ブリザード!」


多方面に散開していたチームファイブGOGOの面々は、素早くウザイナーを取り囲み、そしてそれぞれお得意の攻撃魔法を叩き込んだ。
ルージュことりんの炎の蹴球、レモネードことうららの閃光の鎖撃、ミントことこまちの緑光の円盤、アクアことかれんの輝く水の弩弓、ミルキィローズことくるみの青い薔薇の吹雪。
様々な属性を冠する攻撃魔法が光と煙を上げてウザイナーへと降り注ぐ、動きの止まるウザイナー。
その派手なバトルにもうすっかりショーだと思い込んでいるA−GIRLSのメンバー達のボルテージは高まり続け、ヒーローショーの幼児よろしく「プリキュアがんばれぇ〜〜!」「みんな負けるなぁ〜〜っっ!」とキャキャーお気楽な声援を送っていた。
その様子に事情を知っているバットは、なんだかなぁ〜・・と思いつつも、興奮して現場に接近しすぎないようにA−GIRLSを制止していた。


「よーし!じゃあ最後はあたしが・・・」
「おっと調子に乗るのもここまでよ、そおれ!」

「!?・・・きゃあっっ!」

と、自分の必殺魔法でとどめ・・とのぞみがアクションに入ろうとしたその瞬間、ミズ・シタターレは手元から水流を吹き出させ、のぞみを押し流した。

『ドリーム!』

「余所見はダメよvホラホラホラぁ!」

『きゃあーーっっ!』

と、のぞみが不意な攻撃を受けたことに動揺して他のメンバー達が注意を逸らせてしまった瞬間、ミズ・シタターレはりんたち他のチームファイブGOGOにも水流の弾丸をお見舞いした。
水圧で吹き飛んだ彼女達を、チームハートキャッチ、そしてチームスイートの花咲つぼみ、北条響達が、何とか受け止める。

「のぞみさん!みなさん!大丈夫ですか?」
「あ・・・ありがとうつぼみちゃん・・・」

「もう!いきなり女の子に水かけるなんて!あのオバサン最悪!風邪ひいちゃったらどーすんのよ?ねえ、えりか!」
「ホントだよぉ〜。あ、ねえねえりん!バッファリンの半分ってホントに優しさでできてんのかな?試してみてよv」
「・・・・・響もえりかも、ちょっと静かにしてくんないかな?」


「アッハッハッハ!おまぬけな娘達ねえ、魔力を持ってんのはアンタたちだけじゃないんだよ!これくらい朝飯前さ」

そうだった。
すっかり忘れていたが彼等ワルサーシヨッカーはサラマンダー藤原の見つけた魔力の塊、ジャアクキングの影響によって少なからずプリキュア戦士のような不思議な力、異質な魔力を有している。それを形にして攻撃手段として使うことなど造作も無い事なのだ。
再びウザイナーに立ち直る時間を与えてしまったプリキュア達、このオバサン、今まで出て来たヤツラと比べてもかなりできる方である。
プリキュアメンバー達が苦戦を覚悟した、その時だった。







「オイ、キサマら。黙っていれば、さっきから俺のこのスタジオで何を好き勝手なことをやっている?そして俺をなぜ無視している?」


ミズ・シタターレとウザイナーの前に、先程までレイやマミヤと内輪揉めをしていたこのレッスンスタジオの主、妖星シアトリカルアカデミー塾長・ミスター・UD☆こと島田遊蛇がユラリと立ち塞がった。
先程からの出来事で物凄く不機嫌なのだろう。危険な目の色でウザイナーとシタターレを睨んでいる。
そんな彼に臆することなくシタターレは言った。




「なぁによアンタ?一体何者?」

「このスタジオの主だ。そして世界でもっとも美しい男。ミスター・UD☆こと、ユダだ。俺のこのスタジオでこれほど騒がしく、醜く暴れるとは・・・おまけにこの世でもっとも強く、そして美しい漢である俺を無視しようとは、その愚行、覚悟があってやっているのだろうな?」

「はあ?なによソレ?アンタがこの世でもっとも美しい?勘違いはそのダサイファッションと悪趣味な髪の色だけになさいな!アンタみたいな中途半端なオネエ系の優男、アタシは興味ないのよ」

「ほほぉ〜う?・・・キサマ、どうやらこの場で命を散らしたいらしいなぁ?」

「何ワケわかんない事言ってんのようざったいわね!ウザイナー!コイツもやっちゃいなさい!」
「ウザイナーっ!」

目の前のこのワケの分からない口紅を塗りたくった長髪のオカマ野郎に、シタターレは無性に腹が立ち、ウザイナーに攻撃を加えるように命じた。
しかし、その直後、シタターレは目の前の男に戦慄することとなった。





「この俺様を前によくぞそのセリフを言った!よかろう見せてやる!我が南斗紅鶴拳を!南斗紅鶴拳・伝衝裂波(でんしょうれっぱ)ァッ!」


ユダが手刀を目にも止まらぬ速さで振り上げると、そこから真空の刃が地を這うようにウザイナーに襲い掛かった。風の刃に斬られ吹き飛ばされ、錐揉みして地べたに叩きつけられるウザイナー。
そのウザイナーにさらに風の刃がユダの手刀より次々と襲い掛かった。


「フハハハハハハハ!切れろっ!切れろ切れろ切れろ切れろォっ!」


狂気じみた高笑いを上げながら、ユダは床でもがくウザイナーに向けて手刀を振り上げ続ける。
その笑顔が感じさせるのは猟奇的な行為に快楽を覚えるその男の危険性だった。
バットはそんなユダの様子に
(うわ〜〜・・・完璧イっちゃった人だ・・・・ヤベエよこの人・・・・)
と本気で彼の人間性に危機感を覚え始めた。
こんな人間に本当に時間制のレッスンとはいえ、大切なウチのプリキュアの子ども達を預けてよいモノなのだろうか?1度本気で社長とも相談する必要があるだろう。そもそも、レイやケンシロウ達の知り合いにまともな人間などいるのだろうかということさえ心配になって来た。

そうこう考えている内に、ユダはウザイナーを切り刻むのをやめたかと思うと一足飛びで接近し、その巨体のラジカセ部分を蹴りつけて大きく吹き飛ばし、得意気な高笑いを上げた。


「フハハハハハ!見たか!我が南斗紅鶴拳!その絶技とこの俺の美しさを!」

「うっ・・ウザイナァー!?なっ・・・なによコイツ!?も・・もしかして・・・超ヤバイ危険人物!?」

自分との連携によってプリキュアたちを追い詰めていたウザイナーをまさかの瞬殺。
口紅ぺったりでカールのきいた赤髪ロンゲのオネエ男の意外な凄い実力に、シタターレは目を見開いて仰天した。そして彼女が固まって動きが止まっているその隙をついて、キュアムーンライトに変身したゆりが叫んだ。


「今よ!ドリーム!あなた達が決めなさい!」


「うん、わかったよムーンライト!ココ、準備はいい?」

「了解ココ!」
「みんなでアイツを退治するナツ!」


「みんな、いくよ!」

『YES!』



『力を貸して、キュアフルーレ!』


「クリスタル・フルーレ!希望の光!」
「ファイヤー・フルーレ!情熱の光!」
「シャイニング・フルーレ!はじける光!」
「プロテクト・フルーレ!安らぎの光!」
「トルネード・フルーレ!知性の光!」


「5つの光に!」
『勇気をのせて!』

『プリキュア・レインボー・ローズ・エクスプロージョン!!』


5人の掛け声によってピンク、レッド、イエロー、グリーン、ブルーの5つの色に光り輝く剣のようなアイテムが召喚され、「ハ!」という気合とともに突き出されたそれからそれぞれの光が空中を翔ける。
それが光の薔薇を形成すると、それがウザイナーに向かって降り注いだ。
その薔薇に押しつぶされると、ウザイナーは光の中で「ウザイナァ〜〜〜っっ」という断末魔を残して、シュワシュワと浄化され消えてしまった。



「あぁーーーっ!やられちゃったじゃないのもう!なんてこと!?このアタクシが負けるなんてっっ!?・・・こうなったら社長にたくさんお土産買って持って行ってなんとかティッシュ配りの罰ゲームだけは回避するしかないわね・・・キィ〜〜〜ッッ!悔しい!覚えてらっしゃいなプリキュアの小娘たち!」


ウザイナーが倒されたことで、そして目の前のこのオカマの予想だにしない異常な戦闘力に一気に形勢不利になったと判断したシタターレさんは、社長への言い訳と貢物の算段をしながらも、プリキュア達にしっかり毒づくとそのまま水柱を発生させて一瞬のうちに姿を消してしまった。




シ〜〜ン・・・としばらく静まり返ったのち、A−GIRLSのメンバー達からワっ!と拍手と歓声が沸き上がった。

「スゴォ〜〜イ!PCA21のゲリラアクションショー!はじめて生で見たぁ〜〜v」
「カッコイイぃ〜〜vアタシ、ほのかさんのファンになっちゃう!」
「アタシはなぎささんかなぁ〜?」
「ゆりさんもカッコ良かったぁ〜〜v」


ショーと勘違いしてそんなコトを口々に言い合う彼女達に、当のプリキュア戦士たちも満更ではないようで顔を赤くしてテレながらも、手を振ったりして応えていた。
しかし、そんな彼女達をまたもこの男が凍りつかせた。



「さあ、邪魔者はいなくなった・・・レイよ!そしてマミヤ!決着をつけようじゃねえか!」

ユダはシタターレを撃退してこれで余計なジャマが入らなくなったとばかりにレイとマミヤにそう言い放った。
まだ諦めてなかったのかという空気がその場全体を満たす。
バットも(ええぇぇーーーーーっっ!!??どこまで執念深いんだよこの人!まだ根に持ってたのね・・・)と心の中でお決まりの突っ込みを上げていた。
しかしレイの方はごく冷静にユダに対応していた。


「なんだユダ・・・まだそのコトで気をもんでいるのか?」

「当り前だ!俺を裏切ってまでその女を選んだ貴様を許してなるものか!」

「ならば致し方ない!拳にて勝負をつける!」

「ちょっ・・ちょっとレイったら!あなたまでやめてよ。子ども達だって見てるのよ?ユダ、お願い!もうこれ以上は・・・」

「マミヤ、これは同じ南斗聖拳を学んだ者同士として避けられぬ宿命だ・・・さあ来いユダよ!」

「望むところよ、俺はお前の血で化粧がしたい!喰らえ!南斗紅鶴拳奥義!血粧嘴(けっしょうし)!」


「こんなトコで大人気なく拳法で喧嘩してんじゃねえよォーーーーーーっっっ!!!」


とバットが声に出して激しく突っ込んだが、ユダの技は止まらず、必殺の抜き手がレイへと襲い掛かった。
しかしレイはそれを瞬時に見切り、空中へと飛び上がるとユダへ向けてこう言った。


「相変わらず凄まじいキレの技だユダよ。だが、詰めがまだ甘い!受けよ!南斗水鳥拳奥義!飛翔白麗(ひしょうはくれい)!」

「!・・おお・・・」

そしてレイの動きを目で追っていたユダの拳の勢いが若干緩んだ。その隙に、レイはユダの肩口に必殺の手刀を叩き込んだ。
すると一瞬にしてその肩が裂け、まるで悪趣味なスプラッタ映画のように派手に血飛沫が、ドッシュウッ!と舞った。
その直後、凄惨な光景にプリキュアやA−GIRLSの女の子達の間から『きゃああぁあーーーーーっっっ!!』『いやあぁぁ〜〜〜〜っっっ!!』と言った戦慄の悲鳴が飛び交った。



「えええぇぇーーーーっっ!!ナニその血の量ーーーっっ!ってかガチですか!?ガチバトルだったんスか!?」



もはやバットですら声を大にして衝撃をそのまま伝えるだけとなっている。
レイナやベラ、サクヤですら思わず顔を覆う。無反応でいつも通りなのは頭のおかしい北斗3兄弟くらいである。
一拍おいて後、その大怪我を負ったユダが絞り出すように声を発した。



「!!・・・はっ!?ふ・・不覚!まっ・・またしても・・・またしても俺はお前の姿に心を奪われて・・・」
「衰えたな、ユダ・・・」

「くぅっ・・・だ、だが、俺はこんな・・・こんな死に方はせん!」


と言うと、ユダは何を思ったか、レイの両腕を掴み上げると、そのまま今度は自分の胸板に麗の手刀を

                  ざっくり。

と、差し込んだ。

再びこの猟奇的自傷行為にプリキュアやA−GIRLSのメンバー達の間から『ぎゃあぁぁーーーーーっっ!!!』という絶叫が響き渡る。

「再び何やってのおぉーーーっっ!?しかも自分でっっ!!」


「ユダ!?」

「お・・俺の心の中にはレイよ、いつもお前がいた。お前の美しさは常に俺の心を捉えていたのだ。だから、俺はそのお前が心を許していたマミヤにも、何もできなかった・・・俺が真に美しいと認めた者、その前で俺は無力になる・・・」

「ユダ・・・あなた・・・」

「いやいやいや!マミヤさん!アンタもどうしたんだよ!?何このおかしい会話に加わろうとしてんの!?しっかりして!正気保ってマミヤさん!」


自分も関係していることが会話の流れで理解できて無意識のうちに流されそうになったマミヤをバットが必死でこちら側の世界に引き留める。レイナやベラ達も同僚をこれ以上コイツらのKYな飛んでる世界に引きずり込まれぬようにと声をかける。

「センパイ!しっかりしてください!」
「お前まで巻き込まれてどうする!?」

「そ、そうだったわね・・・ゴメンなさい・・・」

危ういところで救出されるマミヤ、そんな彼女たちの目の前で意味不明な南斗劇場は続けられた。


「レイ!唯一俺が自分より美しいと認めた男よ!せめて・・・その、腕の中で・・・」
「ユダ!」

そう言って、ユダは・・・
愛しのレイに体を預けると、静かに目を閉じてガックリと、息絶えた・・・。





「ええぇぇーーーーーっっ!!??しっ・・死んだあぁーーー!?死んだの!?ウソ!?マジで!?・・・ってか、オイ!救急車呼べよ!救急車!んなくだらねえ寸劇やってるヒマあったら救急車だろうがーーっっ!ゆりちゃん!ほのちゃん!早く電話!119番して!」

「え・・あ!ハイ!」
「わかりました!なぎさ、アナタも手伝って・・・」
「え・・ええ?そ、それはいいんですけど・・・」


と、ここでバットがプリキュアメンバーの中でもリーダー格であり、割と常識が通用するメンバー達に声をかけ、場が騒然とする。
ここにきてプリキュアの子ども達もA−GIRLSの子ども達もようやくユダ先生が先程の混乱で大怪我を負っているというコトを思い出した。
なんでレイさんがあんなことをしてユダ先生がこんなことになったのかは見ていてもよくわからなかったのだが、ともかく死んだように動かないユダ先生を心配して遠巻きに見ている。
そんな彼女達を全く気にするでもなく、ココで彼の腹心でマネージャーでもあるダガールと言われた髭のオッサンがユダにツカツカと近づいてこう言った。



「ユダ様。お取込み中のところまことに恐縮ですが、そろそろエステのお時間でございます。時間を変更になさいますか?」



「あらヤダ。もうそんな時間なの?しょうがないわね。よっこらせ。変更はしないわ。すぐに準備して」



『きゃああぁあーーーーーっっっ!!???』

「うわっ!?起きたぁ!!」

「なぁによまた騒々しいわねアンタたちってば!」

「だって・・・あの、そのキズ・・・大丈夫なんスか?」


「え?なあにコレ?当り前よちょっと遊んだだけじゃない!こんなのツバつけときゃ治るわよ!それにしてもレイ、アンタって久々だってのに加減知らない人ね。痛かったじゃないの」

「フッ、同じ南斗の拳士として手を抜くことは無礼に相当するからな」


「流石はレイ、南斗水鳥拳の技の冴え、未だ蔭ることを知らず、か」
「レイの技には我が柔の拳にも通ずるところがあるな。見事な奥義だった」
「だがしかしこの拳王から見ればまだ青いわ!ユダ如き惰弱な拳法家、このラオウであれば一撃にて冥府へ叩き落とせるものを」


ダガールさんのその言葉に何もなかったかのように反応し、平気で起き上がって来たユダを見て、その場にいた女の子たち全員が戦慄の悲鳴を上げる。
バットも驚いて慌てて体の具合を聞いたが、ユダは全く意に介することもなく当然のように復活した。
どう見ても唾をつければ治るような出血の量ではなかったハズだが、何気にケンシロウたちもいつものようにKYな解説をしているところから察するに、コイツら超人どもの常識から考えれば今の出来事も日常の1コマなのだろう。
プリキュアや妖精、そしてワルサーシヨッカーの事も含めてあらためてバットは自分の以前の日常がもはや遠い世界へと追いやられてしまった事を嘆いた。

ユダが大丈夫だとわかったところで、マミヤは少々迷いながらも、彼にこう尋ねた。


「あ・・あの、ユダ・・・」

「何よ?アンタまだいたの?もう今日のレッスンは終わりにするからアンタもとっとと帰んなさいな」

「え、ええ、そうするわ。でもその前に・・・アナタに謝らなきゃならないことが・・・のぞみ!!」


と、ユダと会話をしていたマミヤが突然厳しく、大きい声で一件落着ぅ〜vとイイ気持で再びお菓子の方へと向かおうとしていたのぞみを呼び止めた。
その声色が、いつもの優しいマミヤ先生のものでなく、そう。
自分達を叱る時に見せるコワイコワイお仕置きモードの時のマミヤ先生のものだと知り、のぞみはビクビクして、恐る恐るマミヤ先生の方を振り返った。

「ど・・・したの?マミヤ先生・・・」

「ちょっとコッチにいらっしゃい」

「な・・なんで?や、ヤダ・・・だってマミヤ先生・・・コワイ顔してるもん・・・」

「いらっしゃい」

「や・・・だって・・・」

「いらっしゃい」


再三そう言われてもうこれ以上抵抗したら力ずくで捕まえられると悟ったのぞみは諦めて、泣きそうな顔でマミヤの方へすごすごと向かった。
周りのプリキュア戦士の女の子たちもまさに、「あ〜あ。やっちゃったからな、カワイソウ・・・」という表情で気の毒そうに彼女を見つめている。りんに至っては「だから言ったのに・・・」と小声に出してもう逃げられない幼馴染を悼んだ。



「なんで?このユダ先生があんなにあなたに怒ってたのか?マミヤ先生にちゃんと説明してくれる?」

「え?・・・えっと・・だって、それは・・・そのぉ〜・・お菓子・・あげようとしたら・・ユダせんせーおこったんだもん・・・」

「だからぁ・・・ココでは!このレッスン場では飲み食い禁止だって言ってんでしょ!?昨日言ったばかりじゃないの!」

「でも!でもさあ・・・ユダ先生だってお菓子食べたら・・・おいしくってえ、ホワホワホワ〜ンになってえ、しあわせになってえ、おこらないかなぁ?・・って思ったんだもん・・・」

「思ったんだもん・・・じゃなぁいのよぉう!ルール破られてんのにそんなコトで喜ぶワケないでしょおバカ!!」

「ユダ先生の仰る通りよ。わかっていながら自分勝手な判断で人の定めたルールを破るなんて、そんなコト教えた覚えはないわ。謝りなさい」

そう言われて、のぞみは今日はじめて何か自分の中でカチンと来るものを感じた。

なんでマミヤ先生がこんなに怒るの?
どうして?
自分がこの計画を立てて実行したのは、なによりも・・・・
そんな気持ちがモヤモヤとした霧のようにのぞみ中にこみ上げて来た。そして彼女は憤然とした顔でぷぅ〜っとふくれっ面をするとマミヤを睨み付けてだんまりを決め込んだ。


「!!・・・のぞみ!バカ!今のマミヤ先生の前でそんな態度とったりしたら・・・」

離れた所で見ていたりんがのぞみの予想だにしないまさかの行動にヤバイ!と感じて思わずそう声に出したが、マミヤは短く息を吐くと、正面で反抗的な態度をとっているのぞみに向かってついに言い放った。


「そう、自分が悪かったとは思ってないのね?反省の色ナシ、か。わかりました。そんな悪いコは先生絶対に許しませんからね!」

「!?・・・ひっ!」

「・・・ユダ、ゴメンなさい。迷惑をかけて、この子にはちゃんと謝らせるので、後の事はまかせてもらえるかしら?」

「・・・なんかひっかかるけど、まあちゃんとケジメつけるつもりならいいわ。好きにやってみなさい」


ユダのその言葉を聞くと、マミヤはのぞみに向き直って、彼女をヒョイと抱き上げると、そのまま片手で横抱きにして、鏡の前に置いてあった椅子の方へと向かった。
自分の運命を悟ってのぞみは必死に精一杯暴れて抵抗する。



「ひっ!ヤダ!やだやだやだあっ!はなしてぇおろしてえぇっ・・せんせえっヤダよぉっ!」

「ヤダじゃありません!わざと約束破って自分勝手なコトして、たくさんの人も巻き込んでいっぱい迷惑かけて・・・そのうえ反省もしない悪いコはたっぷりオシオキよ!」

マミヤはイヤイヤと虚しい抵抗を続けるのぞみを椅子の上に座った自分の膝の上に組み伏せると、そのままのぞみの履いていた赤と青の対照カラーのスカートを捲りあげ、ダンスレッスン用に着用していたピンクのスパッツと、現れた真っ白いパンツもスルリとお尻がちょうど丸見えになる位置まで下ろす。
そして、丸出しになったのぞみの、まだ幼く、小さい、女の子らしい丸みをおびた可愛いお尻に、必殺の一撃を叩き付けた。




パッシィーーンッ!

「ひいぃぃっっ!!??」

ぱあぁーーーんっ!

「きゃああぁぁっっ!?・・・・いっ・・いったぁあぁあぁ〜〜〜〜いぃぃ〜・・っっ!・・うぅぅ〜〜・・・」

初弾の2発。
のぞみの幼く、まだ成長途中の可愛い、色白のお尻にマミヤの真っ赤な手形が左右に赤々と刻印される。
その手形が浮き上がってきたのを確認すると、マミヤは続けて、最初の初弾より多少手心を加えた、力を抑えた平手を均等に振り下ろしていく。

パン!ぱんっ! ベン!ペンッ! ぱしっ!パシィン! ぴしっ! ピシィンっ! ぴしゃっ!バシィ!

「きゃっ・・ああっあああぁぁんっっ!いたっ!ひいっ・・いたぁあぁっ!いたぁぁいっいたっ・・いよぉ・・せんっせ・・ひぎっっ!?・・痛っっ・・やっ・・ヤダぁぁ・・・ふえぇぇぇぇ・・・」

「オシオキですからね。痛いのは当たり前なの!ちゃんと反省しなさい!ホラ!自分が何をしたか、どんな悪いコトしたか考えてごらんなさい」

「やあぁぁっ・・・あたし・・・悪いコトしてないもんっ!」

べちぃぃんっ!

「きゃああっっ!?・・いっ・・いっったあぁあぁいっっ」

「それが間違いです!」

ぱちんっ! ぺちんっ! ぴしゃっぴしゃっ! ぴしゃんっ! ぺしんっ! ぱしぃんっ!

「いたあいっ!・・ひんっきゃあぁんっ!・・やんやぁんっ!きゃうっ!・・いたいぃ・・イタイイタイイタイ、いたいってばぁっっ!なぁんでえぇっっ」

「なんでじゃないでしょ!」

ばしっ! バシっ! びしぃっ! ピシィー! びしっ! べっちん!ぺっちーんっ!

「ふぎゃあぁっっうにゃあぁぁ〜〜んっっ・・いぃだっ!いだぁっ・・いだあいっ!・・いっ・・きゃあぁあっっ・・・いたぁぁ〜〜いっっ・・きゃあんっっ・・・うえぇぇ・・あ・・たし、ひくっひくっ・・ぐずっ・・・わるく・・なぁ・・もん・・ぐしゅっくすんっ・・えっ・・ふえっ・・・ただ・・みんなのこと・・たのしく・・してあげ・・たかっ・・・」

ぱっちぃんっ!

「ぴぎゃあぁぁっっ!?」

「だからルールをあえて破ったっていうの?みんなが楽しく遊べればきまりや規則なんていらないっていうの?そんなわがままが通るワケないでしょ!先生はあなたにそんなコト教えたことありません!」

ぺっちん! べちんっ! バチン! パッチンっ! ピシャーンッ! ぱあんっ! パァンっ! ぺんっ!ぺんっ! ペーーンっ!

「ぅえぇええぇ〜〜〜んっっ・・・だって・・・ひぃっっ!ひっぐぅっ!ぎゃんぎゃんっ!ぎゃあぁぁんっっ・・・ああぁぁぁ〜〜〜〜んっっだってだってだってぇぇ〜〜〜っっ」

「だってなんなの!?言い訳ばっかりして!」

「ひくっ・・ひぐっ・・だって・・だってぇ・・・ぐしゅっくすんっくすんっ・・・えっくひっく・・」

パァン!ぱぁんっ! ペェンっ!ぺぇんっ! ぱんっぱんっぱんっ! ぺんっぺんっぺんっ! ばちぃんっ! ベチィンっ! ぴしゃっ! ぴしゃんっ!

「きゃんっきゃんっ!やんっやぁんっ!・・・きゃっ・・あうぅぅっっ!?・・いったあっ!いだっ!いだぁいっ!・・きゃひっ!いだいぃぃっっ!・・わあぁんっ・・いたぁいよぉ〜〜・・えぇぇ〜ん・・」

「のぞみ?悪いコトしたらなんて言うんだった?」

「えっ・・えっ・・わ・・りゅく・・ないぃ・・もぉん・・」

マミヤはこの答えに頭を悩ませてしまった。
普段から突飛な行動でよくメンバーの中でも叱られる率の高いのぞみ。しかし叱られている時はごく素直で、少しキツめに叩かれただけでもびえびえ泣いて謝り許しを請うコなのだ。
こんなに強情に謝りたくない、悪くないという姿は珍しい。
どうしたものか?と考えてしまう。
小さくて可愛かった色白のお尻はもう見るも無残に真っ赤っかに腫れてしまっている。
マミヤの大きな手形が何層にも刻印され、1回りも2回りも膨らんでしまっているようにも見て取れる。
これ以上ひっぱたけば最悪痣が残ってしまうかも知れない。
そうなればお仕置きの範疇を超えてしまう。どんな状況であろうとも、女の子の体に傷をつけるようなマネはマミヤとしては断固避けたかった。
マミヤはしばらく考えてから、少し可哀想だが恐怖心を煽ってやることに決めた。


「そう、反省できない悪いコは仕方ないわね。じゃあ今日はのぞみが例えゴメンなさいしても許しませんからね」

「えっく・・ひくっ・・・ふぇ!?」

「そんなコはあと100回でも200回でもお尻を叩いてあげるから!覚悟しなさい!」

「!?・・ひっ・・ひゃ・・く!?にひゃっっ!?・・・うわあぁぁ〜〜〜んっっ・・イヤあぁぁ〜〜っっ!」

ぱしぃ〜んっ! ぺしぃ〜んっ! ぴしゃーんっ!

軽く発狂して大声を上げて泣き出したのぞみのお尻に、マミヤはまた3つ平手を落とす。今までのよりも相当手加減した恐怖心を植え付けるための平手打ち。
手加減していても真っ赤に腫れ上がったのぞみのお尻には十分に痛いし、何より今の3発でマミヤ先生が本気だということを理解させることが出来る。
その思惑は功を奏し、予想通りにとうとうのぞみは、今回起こした騒動の動機を、泣きじゃくりながら白状した。





「だってマミヤせんせえに元気になってほしかったんだもんっ!」

「?・・・え?どういうこと?」

「ひくっ・・ひっく・・ぐすっ・・だって・・・マミヤせんせ・・その・・ユダせんせいと会ってから・・・おかしかったもん!元気なかったもんっ!・・ぐしゅっ・・だから、だからぁ・・あたし、お菓子食べたりしてみんなと楽しくおしゃべりしたら、元気になるから、マミヤせんせ・・と・・ひくっ・・ユダ先生もっ・・なかよくっ・・できると・・おも・・て・・わぁぁ〜〜〜んっっ・・ひくっ・・あぁぁぁ〜〜〜んっ」



泣きながらそうポツリポツリと話すのぞみの言葉を聞いて、マミヤは心から自分の失敗を悔いた。

もとはと言えば自分のせいではないか。
子ども達の前で、ユダとの関係が気まずい事を悟られまいと努力していたつもりが、すべてを見抜かれ、結果、こんな年端もいかぬ子どもに気を使われていた。
完全に自分の不徳だった。


「・・・のぞみちゃん・・・」
「それが1番の理由だったのね・・・」
「まあ、アイツらしいと言えばらしいか」
「ええ、そのまんま、その感情を行動でわかりやすく表しちゃうところがなんとも・・・」


バットたち他の保護者連中も、そののぞみの優しさと、感受性の高さ、そして考えの浅はかさぶりすべてに軽いショックを受け、顔を見合わせて話し合っている。
マミヤは軽くタメ息をつくと、のぞみの赤く腫れたお尻を優しく撫でてあげ、そしてこう言った。


「・・・のぞみ、わかったわ。先生が悪かったわね。あなたにそんな心配かけてたなんて気づかなかった、生徒にこんな思いさせちゃうなんて先生として失格だわ。ゴメンなさい」

「ひ・・・ひくっ・・せ・・せん・・せえ?」

「優しい子ね、のぞみは、先生そんなのぞみの優しいとこが大好きよ。でもね、だからってきまりやルールを勝手に破っていい事にはならないの。それが社会で生きていくことの正しいマナーなのよ?わかるわね?」

「・・・・うん・・・」

「だから、今回ののぞみの行動、気持ちは嬉しいけど、許してあげるわけにはいかないの。いい?」

「・・・ゴメン・・ひくっ・・なさい・・ゴメンなしゃいぃ〜・・・」

「そうね。イイコね、でも、まだもうちょっと反省が必要かな?」

「・・・うっ・・うっ・・ううぅっ」

「あと少し、お尻ぺんぺんするけど、しっかり我慢なさい。そして、ダメだったところはちゃんと反省すること。いいわね?」

「うっ・・ふえぇ・・ぴえぇぇ〜〜ん・・・も・・やあぁ・・イタイのやぁだぁぁ〜〜〜・・・」


再度泣きだしたのぞみ。
マミヤは可哀想という気持ちを必死の思いで押し込めると、膝の上の愛し娘のお尻にめがけて、仕上げの拳法をお見舞いした。



「麻美耶聖拳奥義!麻美耶・紅山両断掌!(まみや・こうざんりょうだんしょう)!」



説明しよう!麻美耶・紅山両断掌とは!?

藤田麻美耶が使用する仕置き拳法、麻美耶聖拳、その奥義の1つである。
すでに厳しく叩いて赤々と腫れている悪いコのお尻めがけて振り下ろされるまさにとどめの必殺拳!

その両の紅にそまった桜山の如き尻に、鋭く思い鞭の如き掌打を左右に重く叩きつける一撃必殺の極意。
コレを喰らった悪いコちゃんはその重く激しい激痛とともに自らの犯した過ちを心の底より反省し、お仕置きが終わった後も、しばらく数日間は烙印のようにジンジンヒリヒリと主張するお尻の痛みを味わい、2度と同じおイタをしないようになるという。
まさに罪を断つ!正義の奥義!そして子ども達にとっては恐ろしい奥義の1つなのである。



びったあぁ 〜〜〜〜 ん っっ !!
  ぴっしゃあぁ 〜〜〜〜 ん っっ !!



「!!??・・・いぃっぎゃあぁぁ〜〜〜〜〜んっっ・・ぴぎゃあぁぁ〜〜〜〜〜〜んっっ」






「ああぁぁぁ〜〜〜〜んっっ・・・ひくっ・・うぅえぇぇ〜〜・・・びぃえぇぇぇ〜〜ん・・・」

「よしよし、イイコイイコ。のぞみはイイコよね。ありがとう。先生嬉しかったわよ、あなたのその気持ち、のぞみはとっても優しい子ね。でもねいいこと?だからって他所様のレッスンスタジオでそこのオーナーさんが決めたルールを自分勝手に破ったりしちゃダメ。のぞみだって自分のお部屋で他の人が自分の嫌がるコトをワザとされたら気分悪いでしょ?それと一緒、ね?だからこんなことはもうしちゃいけません。いいわね?」

たくさんお尻を叩かれた後、のぞみは泣きじゃくりながらマミヤ先生のお膝の上に抱っこされて、散々叩かれたお尻と髪をヨシヨシと撫でてもらっていた。
お尻はマミヤの手形がたくさん貼り付けられて秋の紅葉山のように真っ赤っかに染まり、ぷくぅ〜と腫れ上がっている。しばらくは椅子に座るのもツライだろう。
後から後から溢れて来るとめどない涙を両手で拭っているが止まらないようで、のぞみの顔は涙と汗と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。


「ほら?さっきみたいに、ユダ先生にもちゃんとゴメンなさいできるわね?」

「ハ・・イ・・えくっ・・えっぐひくっ・・ユダ・・しぇんっしぇっ・・ぐしゅっ・・ゴメンなっしゃいっ・・ゴメンなさいっ・・うっく・・」

「ふふ〜ん、アンタもなかなかやるじゃないのマミヤ。やっぱり女の子を躾けるにはお尻を叩いてあげるのが1番だわねオーーホホホホホホホっ!wま、その子の真っ赤なオシリちゃんに免じて、今日の事はキレイさっぱり水に流してアゲルから感謝しなさい」


涙で声が詰まってうまく言葉にできないのぞみの、やっとかっとの謝罪の言葉にも、あくまで高飛車にそう言うユダだったが、それでものぞみの今回の騒ぎは許してくれそうなので彼の態度は気にしないことにした。
お仕置きが終わっても中々泣き止まずえぐえぐ泣きじゃくってるのぞみに、いつの間にかPCAメンバーだけでなく、A−GIRLSのメンバー達ものぞみに駆け寄り、「のぞみちゃん大丈夫?」「痛い?平気?」「アイスノンもってこようか?」などと気遣いの言葉をかけている。
のぞみのお仕置きは確かに可哀想だったが、この女の子たちの友情の深まり方はバットや他のレイナたち保護者もよかったよかったと胸を撫で下ろした。






「あ!いたいたぁ〜ケン!それにお兄さんたち!」
「探したのよ、こんなトコロにいたのね」

「ん?あ、リンちゃん!それにユリアさん!?なんでこんなとこに!?」


と、一件落着の雰囲気が漂ったその時に、プリキュア達とA−GIRLSのメンバー達がいるレッスン場に突然、PCAの先輩女優であるリンと、サザンクロスプロモーションのユリアが駆け込んできた。
突然の来訪だったが、PCAの子ども達もA−GIRLSの子ども達もちゃんと礼儀正しく、リンやユリアとわかった途端に「お疲れ様です!」と挨拶をした。
そんな2人にバットとレイナが近づいて質問した。


「リンちゃん、それにユリアさんまでどうしたんですか?こんなトコまで?」

「そうよ?リン、今日はユリアさんと共演でグルメリポートロケのお仕事が入ってたハズでしょ?」


「うん、そうそう。で、そのハズだったんだけどねぇ・・・」
「特別ゲストが・・・ソコにいるレイだったんですよ。で・・・実は・・・」
「ケンとお兄さんたちがぁ、ロケ先のお店を、まあメチャクチャにしちゃったんだよね、えへ♪v」


「・・・あぁ!?」

『はう・・・っ』

殺すぞ!というような勢いのとんでもなくこわぁ〜い眼でバットに睨み付けられ思わずビビッて眼を逸らす北斗3兄弟。
そんなバットにユリアが説明に入る。


「実は今日、わたしとリンちゃんとレイさんの食レポになぜかケンたちも飛び入り参加することになって、有名なカツ丼のお店だったんだけどね、そこで・・・」






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ユリアさん回想〜以下語りユリア〜







あの時、カツ丼の有名店、「牙勝」でグルメのロケが始まったわ。
最初は何の問題もなく、撮影は順調にスタートしたかに見えたの・・・。



「さあ!それでは今回の『冨永鈴の突撃・グルメ10番勝負♪』ゲストは女優の山本由利亜さんと、モデルの塩沢麗さんで〜す!」


「どうも〜vよろしくお願いしまーす」
「うむ」

「そしてぇ、さらに特別ゲストは!今人気、話題沸騰中のアイドルグループ、PCA21のスタッフとして日頃働いてる霞3兄弟のみなさんにも来てもらいましたぁ〜v」

「うむ」
「よろし・・ゴホッゴホッ・・!」
「・・・早いとこ飯をこの拳王に差し出せいっ!」

「さぁ〜それではココ、カツ丼の名店・牙勝(きばかつ)さん、どんなカツ丼なのかな〜?わあ!おいしそう!卵がプルルン!ふっくらなカツ、リン楽しみ!それじゃあ早速、いただきま〜・・・」


「ぬああぁあぁ!?」
「のおおおあっ!?」


「・・・え?」
「・・・どうしたのケン、トキ、いきなり・・・」


「ラオウ貴様ぁ!」
「我らのカツの最も大きい部分を横取りするとは・・・どういう了見だ!?」
「ぬわははははっ!甘いわ貴様ら!隙だらけだぞ!北斗神拳の拳士に安息はないと思え!しかもカツ丼と言えば丼の覇王!なればこそそのカツ丼の最も大きい部分を食するはこの拳王に与えられた責務なり!反論は許さん!」

「おのれ、手前勝手な理論で世紀末の救世主となるはずだったカツ丼のカツを奪おうとは、ラオウ!貴様には地獄すら生ぬるい!」
「ラオウ、もはや貴方のその欲望は天を揺るがす炎!この柔の拳が今こそ葬ろう!」



『ならば勝負!』



「あたたたたたたたたたたたたたたたたた!」
「ぬあだだだだだだだだだだだだだだだだ!」
「いりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」



一瞬だったわ。
ケンとラオウとトキの無数の拳打が店内を縦横無尽に交錯して、その凄まじさは闘気を孕み、あっという間に店内を戦場へと変えたの。
そして・・・・






               ド カ   ーーーー  ン






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜回想終わり



「というワケでぇ〜ケンたちもレイさんも、わたし達もぉ〜♪」

「店のものを散々叩き壊されて怒った店主に追い出されてしまった」

「ロケしっぱぁ〜いお疲れ様でしたぁ〜♪面白いでしょ?バット!」



『・・・・・・・・・・』



あまりのくだらなさと非現実さ加減にバットは、いや、その場にいた全員が凍りついた。
食い物の恨みは恐ろしいと一般的に言うが、いくらなんでも限度というモノがある。
たかがカツ丼の取り合い、兄弟喧嘩で貴重な仕事を1つフイにしてしまったのだ。
この3人の考えの浅はかさと短慮さに心底腹が立つ、バットは苛立つ気持ちを露わにしながらケンシロウたちに尋ねた。


「テメエらは全く・・・そんな簡単な仕事1つできねえのか?ああ!?もういい加減会長に頼んでクビにしてもらうか?どうするんだよ!?」


「う・・・うむ・・・」
「不覚、このトキ、心底悔いておる」
「我は拳王!貴様などに、権力などに媚びはせぬ!・・・だが・・・」




『ゴメン、バット』



声を揃えてそう言う北斗3兄弟にバットはほとほと力が抜けた。
もう決定的だ。
自分のストレスはちょいちょい派手なおイタをするPCA21のお嬢ちゃんたち故ではない、コイツラのせいだ。

「それでレイ、どうするの?アナタ、このままロケ失敗にしていいの?」

「・・・イヤ、できればあのカツ丼うまそうだったし、ロケ再開できれば嬉しいのだが・・・」

「リンちゃんもユリアさんも、結局そうなれば1番都合がいいんじゃない?」

「え?・・うぅ〜ん・・・」
「まあ、それはそうなんだけど・・・」

と、イマイチ曖昧な答えをするリンとユリアにマミヤは「よし!」と短く言葉をつくと、のぞみを抱っこしたまま言った。

「今から撮影隊を組織し直してそのお店に行きましょう!そして誠心誠意を込めて謝ってロケの許可を取るの!そうすればお店のご主人もその誠意に答えて許してくれるかも知れないじゃない」

「・・・ロケ?せんせぇ、今からみんなでロケしに行くの?」

「・・・そうね、そうできるようにお願いしに行こうって話よ」

「じゃあ、あたしも行く!」

すると、今まで泣いていたのぞみがケロリとして、パっと笑顔になると、マミヤの腕の中からピョンと飛び降りてレイの前に立ち、えへへと笑うとその手をとって言った。

「あたしも協力するよ、レイさん!みんなでそのお店のおじさんに謝りにいこ!そしたら、またロケさせてもらえるよきっと!」

「・・・うむ、そうか?」

「そうだよぉ〜vねえ、ラブちゃんも!りんちゃんもうららもぉ、かれんさんたちもみんなで行こうよ!」

「そうだね!そうしたほうがみんなでしあわせGETだもんね!」

「ったく、アンタは・・・ま、先生たちがOKって言うなら、付き合ってあげるかな?」

「よぉ〜し!みんなで行くぞぉ〜vけってぇ〜〜い!♪」


すっかり泣き止んでお尻が痛いのも忘れてそんなコトを言うのぞみの姿を見て、マミヤは微笑んだ。
ウチの子達はこんなにイイコがたくさんいるのだ。
ちょっと間違いを犯して、時には意地を張って仕方なくお仕置きをする時もあるが、こんなに素直に誰かの役に立ちたいという思いを持っている、そんな姿を見ると、マミヤはやはりこれからもこのプリキュアの子ども達を正しい道に従って教育して行こうと決意を新たにしていた。

「バットくん、レイナたちも協力してくれる?」


「ええ、もちろんですよセンパイ」

「仕方ないっスからね、このバカどもせいで!」

と、言いつつもレイナ、バットと他のマネージャー先生や何人かのプリキュア戦士たちもついて行こうとした時、ふと、その前にレイが立ち塞がった。


「まて、マミヤ。やはりその不始末の尻拭い、お前にやらせるわけにはいかん」

「え?どうして?」

「お前は女だ。女であるお前が男の俺達がしでかした失態の謝罪に行くなど、俺の義の星が許さん」

「・・・そう、ありがとう気を使ってくれて、でも今回はウチのスタッフのケンたちに大部分の責任があるし、それに・・・」

そう言ってマミヤはレイの前に進み出て晴れ晴れとした表情で言った。


「仕事中のわたしは、女を捨てているわ。ここにいるのは、PCA21のマネージャーであり、五車プロモーションの社員、そして一介の教育者であるマミヤなのよ」


その言葉にレイナや周りのプリキュア戦士のお嬢さま方が「カッコイイ〜・・・」というような顔でマミヤを見る。しかし、レイはそのマミヤにゆっくりと近づくと、「・・・そうか」と言って突然手刀をマミヤに向かって振り上げた。
するとなんということだろうか、レイの手刀によってマミヤは服を一瞬のうちに切り刻まれ、哀れ、美しい肢体を晒しパンツ1枚にされてしまったのだ。


「・・・きゃっ!??」

『きゃあぁあ〜〜〜〜っっ!??/////

『おおおっっ!?//////

「ええぇえぇ〜〜〜〜〜〜////////いきなり何やってんのオォーーーっっ!?/////


それを見ていた周囲の子ども達をはじめ、至る所から悲鳴が上がる。
バットも当然、激しく声に出して突っ込むが、内心ちょっと嬉しいかも・・・と不謹慎に思ってしまっていた。
当のマミヤも突然のことに慌てて露わになった胸を隠す。



「女でなければ胸を隠す必要もない!マミヤ、お前はやはり女なのだ。お前はお前の幸せのために生きよ」


と、そんなコトを言ってカッコ良く決めたレイ。

そのつもりだったのだが・・・



「・・・・レイナ、ケータイ貸して・・・」

「え・・え?あ・・ハイ・・・」


     ピ・・ポ・・・パ・・・


「あ、もしもし、警備員さん?すぐにお巡りさん呼んでください。ココに痴漢がいます」












「まっ・・・待てマミヤ!!お・・俺はお前のためにぃ!!」
「ハイハイ、続きは署でゆっくりね。お〜い、取調室空けとけ」



ものの数分後、哀れ、恋人に痴漢呼ばわりされてしまったレイは警備員さんとやってきたお巡りさんに強制的に連行され、パトカーの中へと消えていってしまった。

その姿に呆然とするのはプリキュア達よりも、A−GIRLSのメンバー達よりも、当のマミヤ達よりも、その光景を傍で見ているしかできなかったユダさんだった。


「・・・・・れ・・・レイ・・レイが・・・」

「ユダ、今日はホントに騒がせてゴメンなさいね。後日またあらためて謝罪に来ますから、今日はコレで帰らせてもらいます。ホラ、あなたたち、ユダ先生にご挨拶」

「え?あ、はぁい」

『お疲れ様でしたぁ〜!』


そして、そのまま固まっている彼に、レイナから取りあえず別の着替えを渡されて即座にそれを着込んだマミヤが話しかけ、プリキュアのお嬢さまたちが挨拶を終えると、みんなでそそくさと帰って行ってしまった。



「・・・・・」

「あ・・・あの・・・ユダさま・・・そろそろ・・・エステになさいますか?」


「あ・・・あ・・あんな仕打ちをされても・・それでも!あの女のほうがいいというのか!?俺はあんな仕打ちをするマミヤよりもレイにとって不要か!?」

「ゆっ・・ユダさま!落ち着いて、お気を確かに!」

「おのれえぇっっ・・・レイぃ〜〜〜っっ!!この俺の気持ちを踏みにじりおってえぇ〜〜っ!やはりアイツはわからせてやらねばならん!次こそは必ず!!必ず俺の前で愛の告白をさせてくれるわぁ!レイぃ〜〜っっ!」




そんな心の叫びを、全開で叫び続けるユダの声は、誰もいなくなったレッスン場にむなしく木霊し続けた。






      み だ れ 髪

         は ら さ で お く か 

              こ の 恨 み






PCA21の新たなレッスンを受け持ったミスター・UD☆ことユダ先生には、まだまだ受難がありそうでした。





                     つ づ く